美しい後輩ちゃんには棘がある
さーど
プロローグ
:白い雪の少女:
この場に来ると、いつも思い出す。まるで、何か
そのときに現れるこれを、まだ名づけることはできない。なんだか甘くて、胸を
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「ぐすっ……ひっぐ……」
とても広い図書館の中、お気に入りの絵本を持って歩いていたら、小さく少女の
幼き本能のまま振り返ると、小さくて、儚げな、自分よりもあどけない少女が視界に移る。
その顔は見えなくて、今になると失礼だが、その姿は日本昔話ののっぺらぼうを
ただ、雪のように白くて細い腕と、ショートカットにされた、
頬や唇などはわからないが、グリム童話の白雪姫のようだ。今手に持っている絵本に、ふと視線を注ぐ。
視線を少女に戻し、泣くのなら異変があるのだろうと無意識に
「どうしたの?」
特に邪な気持ちなく声をかけると、少女は目元から腕を離して、ゆっくりと顔を上げる。
それによって現れた顔は、目元含めて頬や唇に赤みは感じるが、血のように鮮紅なイメージは薄い。
それよりも、ぱっちりと開かれた眼に収まっている、ヘーゼルカラーの瞳の方が印象に残る。
涙がたまってかなり濡れてはいるが、それでもその希少性はとてもよく分かった。
少女は、首を傾げる私に警戒心を表すことなく、その色素の薄い唇を小さく開いた。
「おかあさんと、はぐれたの……」
そう言うなり、少女は熱のたまった頬に滴を一つしたたせる。まだ、落ち着けてはいないようだ。
迷子。その言葉を理解し、自分は納得気に頷く。この図書館は広いため自分も迷子になったことはある。
「ついてきて」
その時に解決した方法を思い出して、自分は少女にそう言うなり手を差し伸べる。
しかし少女は、その手を取ることなく、ふるふると首を横に振った。先ほどと違って、今回はなにやら警戒心を感じる。
「しらないひとに、ついていっちゃ、ダメって……」
そう言う少女に、自分はまたも納得する。自分もそれを心掛けているし、なにより、少女とは今回が初対面だ。
だけど、そうなるとどうしよう。ここは見渡しが悪いし、滞在するのもよくない気がしている。
「それ、なに……?」
そこで、少女が自分の手元を指さしてきた。自分が当時お気に入りだった絵本……子ども用に描かれた「白雪姫」だ。
少女は目立つ見た目をしているその絵本に、首を傾げていた。
「……おひめさま?」
表紙を見せながら題名を答えると、少女はそう言って目を見開かせた。
心なしか、そのヘーゼルカラーの瞳はキラキラと輝いているように見える。
「どんなおはなしなの?」
食い気味に、少女は前屈みで詰め寄ってくる。先ほどまでのぞかせていた警戒心は、もう見当たらない。
警戒心のON/OFFが激しいことこの上ないが、自分はそんなことなど気にならなかった。
少女がこの絵本に興味を持ってくれたことを、うれしく思ったのだ。
だから自分は、その絵本……「白雪姫」の物語を、少女に読み聞かせした。
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「おうじさま……」
最後の場面、王子様が毒林檎で眠る白雪姫の唇を奪った際、少女がなにやら熱のこもった声でそう呟く。
その瞳はやはりきらきらとしていて、口は無意識か半開きになっていた。
「どうだった?」
自分の好きな作品を読んでくれた感想が早く聞きたくて、自分は食い気味にそう尋ねる。
今になればその表情で察しはつきそうではあるが、
「すごくよかった!」
少女はそんな自分の問いかけに、満面の笑顔を浮かべて元気よくそう答えてくれた。
良い返事をとても素晴らしい笑顔を向けられながら聞けた自分は、満足げに頷いた。
「あっ、叶っ!」
と、そんな時、近くの方から大人びた女性の声が聞こえてきた。
振り向けば、そこにいるのは予想通り大人びた女性。歳としては20代後半から30代前半に見える。
その女性は明るめの茶髪と、少女と同じようにヘーゼルカラーという希少性の高い瞳を持っていた。
「あっ、おかあさん!」
女性……少女の母親に、少女は彼女に全く同じトーンでそう返し、嬉しそうな表情を浮かべる。
そして、細い腕を広げながら母親に走っていく。
「叶っ、心配したのよ……!」
母親の方もそんな少女に白い腕を広げて、ぎゅっと力強く抱きしめた。
どうやら問題は解決されたようで、自分は絵本を閉じながらその光景を眺めてほっとする。
「よかったね」
「うん!ありがとう、おにいちゃん!」
最後に
自分は何もしてはいないのだが、この時の自分はなぜだか得意げになって「どういたしまして」と返す。
『おにいちゃん』というものも、違和感はあれど気にはしなかった。
「お友達?」
すると、母親が俺の方を見ながら首を傾げ、少女に尋ねる。
しかし少女は、そんな母親の言葉に首を傾げ返す。そして、こちらに視線を向けてきた。
「おとも、だち……?」
その顔で、今少女がどう言いたいのか少しわかったような気がする。
まだ出会ったばかりのこの関係だけど、はたして友達と呼べるものなのだろうか。と。
それを感じ取り、幼い心ながらも自分は一生懸命ながらに考えた。
みんなみんな、生きているんだ友達なんだ、ともいうが、それを解釈すると浅すぎるような。
だってそれは、友達という価値を底まで下げてしまっている。そんな気がする。
そういうものじゃない。自分が求めるのは、もっと固く残るもので、強く育むものだ。
固く残り、強く育む……それこそ、友達という絆の''証''。……証……あかし?
「──………!」
とそこで、自分の頭の中に一つのことが思い浮かんできた。
「白雪姫」で、姫が目を覚ました際に王子が手渡していたもの……指輪だ。
それを姫に渡す際、王子は姫との将来を誓っていた。友達という関係も、もしかしたら将来も続くかもしれない。
それを確かなものにするための''証''を、自分が少女に手渡すのだ。
しかし、生憎と今は指輪などを持ち合わせてはいない。
しかし、似たようなものなら今も身に着けている。最近は毎時と手放さなかった、''証''となるものがある。
自分はその証をポケットから外して、彼女の元へ向かい、それを差し出す。
自分の小さな手の上に乗ったその''証''とは……白いバラを模した、拳半分くらいのアクセサリー。
「白雪姫」が好きな自分を見て、母親が手作りで作ってくれたものだ。
何故選ばれたのが白いバラなのかは、この時はまだ知らないが、とにかく大事にしていたのを今も覚えている。
少女は白いバラのアクセサリーを慎重に受け取るの、それをマジマジと見つめる。
そして、どういう意味なのかと疑問をうかべた視線を向けてくる。
「あげるよ、ともだちのあかし。これからよろしくね」
そう言って笑いかけると、少女は意味を理解したようで表情を明るくする。
そして「うん!」と力強く頷き、その白いバラは彼女の胸元に安全ピンで止められた。
「にあってるかな」
そういって少女は自分の前に立ち、頬をほんのりと染めながらそう尋ねてくる。
希少性があり、かつ白雪姫を彷彿とさせるその雰囲気に、白バラというアクセサリー。
「にあってる」
言わずもがな、幼き心である当時の自分でも素晴らしいと強く思えた。
だから正直な感想を彼女に答えると、彼女はにへら、と笑って、こちらに近づいてくる。
「ちゅっ」
そして、頬に暖かな感触が一瞬だけ走る。とても柔らかくて、瑞々しいものだ。
それが何かは、今になっては理解できる。
「ありがとう、おうじさまっ」
しかし当時の自分は、それが何かも気が付くこともできないままで。
それから彼女が浮かべた彼女が、この記憶の最後。……もう、十年ほど前の話だ。
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……余談だが、白いバラにも、立派な花言葉というものが存在する。
それは、今考えるととても重くて。しかし、とても幸福に満ちたもので。
純粋さ、若さ、無邪気さ……「永遠の」忠誠心、愛。そして、新たな始まり。
……そして贈る際、本数によってさえも、白いバラには花言葉が発生する。
その言葉……その時の感情を考えるならば、あながち間違いではないと思えた。
その花言葉とは……
──''一目惚れ''
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