カノカゼ~彼女の恋は風まかせ
水原麻以
【第1章】 ビュランスの谷の邪教団と宇宙異端審問官
「じゃあ、人類の九十九パーセントが
「いくらなんでも、総人口をここに収容できないわ」
ボーイングB-52だの、ニミッツ級原子力空母だの、その筋のマニアが見たら感動に打ち震えそうな骨董品が並んでいる。
「お言葉ですが、人間を大量破壊兵器扱いするのは無理がありすぎます。片っ端から逮捕するんですか?」
「このままだと、連中の理想が成就するわ。無神論者の思考エネルギーを根こそぎ悪魔の復活に振り向けるだなんて!」
「人権侵害で批判を浴びますよ」
「手段を選んでる暇はないの。あなたは
銀河規模の支持者を誇る邪教の浸透を食い止めろとは、ずいぶん足元を見られたものだ。
また、安い報酬で事態収拾を丸投げするのか、とシアは心の底で吐き捨てつつ笑顔で尋ねた。「人類存亡の危機とやらはこれで八回目ですよねぇ?」
チーフバスターは厳しい顔で睨み返した。
「うちが潰れたら、世界が潰れっぱなしになるんですけど!」
「それもいいでしょう! ブラックギルドの存在を許す世界なんて悪魔にくれてやれば?」
女同士の意地の張り合いに金が絡むと手におえない。しかも、ここは歯止めをかける男がいない社会だ。
「悪魔が経営する世界の方がマシだというの?」
「とにかく、お断りします! 無神論者の存在を逆手にとって、悪魔の復活にお墨付きを与える敵だなんて、うちの厨二娘が聞いたら……」
シアの抗議を元気な声が遮った。
「呼んだ?」
分厚いオーク材の扉が無遠慮に開け放たれ、セーラー服姿の少女が駆けこんできた。亜麻色の髪が風に揺れ、尖った耳が元気に揺れ動く。
厄介の種が自分から飛び込んできた。シアはこれから解決すべき仕事の難易度が二桁は跳ね上がると判断し、立ち眩みをおぼえた。
少女は事大主義者だが夜郎自大でもあり、「邪気眼」だの「影の血脈」だの大仰なフレーズを使いたがる年ごろだ。
「ちょ、あんた、どっから沸いたの?」
「ギルドからの正式な依頼だよ」
これ見よがしに、
チーフバスターはわざと瞳を潤わせて少女に近寄る。
「玲奈さんは、事の重大さをご存知よねっ?」
「そうよ。これぞ悪魔の最大の攻撃! 神を詐称せし精神生命体を討って、冥界を解放した人類の盲点を突き、復権のチャンスを虎視眈々と……」
玲奈はメディアの心情を芝居がかった台詞まわしで訴える。
「わたしの娘をダシにするアンタの方がよっぽど悪魔的よ!」
シアはげんなりした顔でいうと、「暗黒邪心の意思表示云々~」とか独り言を唸っている娘の耳を引っ張って、宇宙港の方へ駆け出した。
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