出会いはいつも突然に

 専門学校の2年目は、先生から話を聞いたりするよりも、みな黙々と机に向かっている時間が多くなった。小説はみんなでわいわい楽しくやっていて完成するものではないのだから、当然だ。

 学校側から、「在学中デビュー」を期待されるような言葉もあった気がするが、僕は笑ってしまう。もし運良く在学中にデビューを果たせたとしても、その後続けて良質な作品を生み出していく力がないなら、すぐに消え去る運命だろう。学校側はそれで満足かもしれないが、僕はまず安定して作品を書き続けていく力をつけることしか考えていなかった。


 そんなある日、僕は『パラサイト・イヴ』という小説を読んでいた。SFの設定を活かしたホラー作品で、第2回日本ホラー小説大賞受賞作品。スクウェア(現スクエニ)でゲーム化されたので、ゲームのほうが知られているかもしれない。ゲームは原作とまったく別物の内容だったけど。

『パラサイト・イヴ』はとても良作だった。僕は文庫本で読んでいたけど、文庫本版では作品の最後に作者のあとがきが載っていた。それも数十ページにわたる力の入ったあとがきだ。

 そのあとがきの中で、作者がディーン・クーンツという名のアメリカの作家についてとても熱く語っていた。熱烈と言っていいほどに。

 そこまで熱く語られる人物は何者だと思って、僕はディーン・クーンツという作家の本を探してみた。すると、ディーン・クーンツが出した『ベストセラー小説の書き方』という翻訳本が存在することがわかった。小説家を目指している者としてはとても気になるタイトルである。実際ディーン・クーンツはアメリカではスティーヴン・キングに匹敵するようなベストセラー作家のようだ。僕はその本を購入し、早速読んでみた。

『ベストセラー小説の書き方』には、クーンツなりの小説の書き方であったり、作家としての姿勢などが一冊の本を通して事細かに書かれていた。そしてこの本は、僕にとっての小説のバイブルとなった。

 正直、2年間の専門学校生活より、この本から得られたことのほうがはるかに多かった。といっても、知識はすぐに力になるわけではない。だけどクーンツの本は僕が小説を書くにあたっての大きな指針となってくれた。


 次に、クーンツの小説を手に取ってみようと思った。僕が初めて手にしたクーンツの小説は、『戦慄のシャドウファイア』。とてもかっちょいいタイトルである。実は僕が書いた『殺戮のダークファイア』は、完全にこのタイトルを真似している。内容は全然違うけど。

『戦慄のシャドウファイア』は、すごく面白かった。設定も面白く、展開作りが緻密で、ワクワクとドキドキが止まらない。これが本場のエンターテインメントなんだと思った。

 だけど僕が一番グッときたのは、とくに本編と関係のないサブストーリーだった。家族を亡くししばらく傷心の日々を過ごしていた刑事(サブキャラクター)が、相棒と一緒にある女性に事情聴取を行うシーンがある。そこで、傷心の刑事は女性に一目惚れした。そして女性の家を去る間際、刑事は勇気を出して女性をデートに誘うのだ。刑事の相棒は初めこそ驚いたものの、相棒の心の痛みを知っているので心から応援した。そしてそのデートの誘いは、無事女性に受け入れられることになる。

 これは根幹のストーリーには関わりのない、無くても何の支障もないエピソードなのだが、僕はそのシーンが大好きで、そしてそれを描いたクーンツに惚れた。これをきっかけに、僕は続々とクーンツ作品に手を伸ばすようになる。僕にとって、クーンツは小説の師匠となった。クーンツに出会わせてくれた、『パラサイト・イヴ』とその作者にとても感謝している。まるでお見合いの仲居さんのような役割を担ってくれた。


 僕が書く小説、とくに長編は、随所でクーンツの影響を受けているはずだ。僕の『殺戮のダークファイア』という作品に、「会話が自然ですごく面白い」というようなレビューを書いてくれた方がいた。僕はすごく嬉しかった。僕はクーンツ作品のユーモラスで洒落た会話に大いに影響を受けていたから。

 多角的な視点から、クライマックスに向けてちょっとずつちょっとずつ物語を詰めていくところも、完全にクーンツの影響だと思う。どんなに凄惨な物語でも、最後はハッピーエンドで終えるところも。

 もしクーンツに出会わなかったら、今の僕はないはずだ。


 みなさんにも、僕にとってのクーンツのように、自分の指針となってくれる人物はいますか?

 僕もいつか、誰かが自分を慕い目指してくれるような、そんな立派な作家になってみたいですね。

 だからそのために今日もこうやって僕は机に向かい、ネットゲームに勤しんでいるのであった(またか!?)。

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