後輩は腕相撲で駆逐しろ

 学校に通い出して半年ほどが経過したころ、メインのF先生の授業で「長編小説」の書き方講座が開始された。

 たぶん、プリントが三枚ぐらい配られて、ざっと説明されたと思う。そんなんでホントに小説書けるようになるの?

 小説の流れというものについての説明があった。いわゆるジェットコースターのように、最初ガーっと上がって、ガクッと一気に落ちる。その後少し上がって、また下がる。さっきよりも少し大きく上がって、また下がる。そしてクライマックスでガーっと上がって、最後ちょっと下がって終わり。正直こんなの、ネットでちょっと調べれば出てきそうなことだけど。

 小説(物語)だけでなく、音楽などもこのような流れになっていることが多いらしい。たぶんそれが、人間の感覚に訴えかけるうえで効果的だからなんだろう。

 小説に関してのネタ出しを行った。とにかく面白そうな発想を箇条書きにしてたくさん書き、先生に見せて、その中から先生がネタを選んだ。そのネタをもとに長編小説を書いていく。もちろん、初めはプロットから(プロットについての話は次回します)。

 僕は5万文字ぐらい書いたところで、挫折した。なんか違う、と思った。これは自分が書きたいものではない、と思ってしまった。というより、誰が読んでも面白くない。

 僕は小説を書き始めるようになってしばらく、山のようにボツ作品を積み上げた。途中で一回なんか違うと思うと、僕は最初から全部やり直したくなる。クウォリティはともかく僕が初めて長編小説を最後まで書き切ることができたのは、小説を書き始めるようになってから3年も経過した日だった。つまり、専門学校在籍中は1作も完成させられていないことになる。

 小説を書くのってこんなに難しくて大変なんだ、と僕は知った。小説の執筆というのは「常に上手くいかない」。順調に進んだためしがない。


 そうやって苦悩の日々を過ごしているうちに、専門学校生活2年目に突入し、ノベルス学科の後輩諸君が入学してきた。といっても、一緒に授業を受けるわけではなく、その事実があるだけだ。

 そんなある日、学校の授業時間にノベルス学科の1年生と2年生(僕たち)の交流会が開かれることになった。僕たちが1年生だった時はなかったイベントだ。

 総勢100名近い(1年生のほうがちょっと多い)生徒たちがいつもの教室よりちょっと広い部屋の中に押し込まれて(現在の状況では考えられないよね)、自己紹介をしたり(100人の自己紹介を誰が覚えられるっつーんだ。まあ、僕はちゃんとジョークを言って笑かしたけど)、ちょっとした催し物をしたりした。

 交流会の後半は、人数が多いために2グループに分かれて、1年生と2年生の間での質問タイムになった。

 だいたいみんな真面目くんなので、提示される質問はつまらないものばかりだ。僕はちょっと退屈してきた。

 なので、2年生からの質問の番になった時に、僕は挙手をして先生にこう申し出た。


「あの、質問じゃなくてもいいですか?」

「はい、どうぞ」


 たぶんこの辺りで、僕を知っている人間なら何かしでかしそうな予感があっただろう。


「1年生の中で腕に自慢のある方、僕と腕相撲をしてください」


 教室内が一気にどよどよし始めた。もちろん、僕はそのために一石を投じたのだ。「なんで腕相撲?」という質問は受けつけない。


「ただ、普通にやってもつまらないので、賭けをしたいと思います。もし1年生が僕に勝てたら、1万円を差し上げますよ」


 教室のどよどよがさらに増した。1年生たちは(2年生たちも)顔を見合わせてごそごそ喋っている。


 結局、「1万円はガチすぎる」という先生のお達しにより、敗者は「みんなの前で何か面白いことをする」という罰ゲームになった。まあ僕は1ミリも負ける気なんてない。

 1年生の中で勇気ある男子が一人進み出た。いいだろう、全力でぶっ潰してやる。

 先生が審判となり、みんなの前で腕相撲が開始された。

 二秒だ。二秒で片がついた。もちろん僕の勝利である。腕をへし折ってやるぐらいの勢いでやってしまったので、相手になってくれた1年生は痛そうにしていた。僕は高々と右腕を掲げて勝利宣言。罰ゲームとなった1年生はある芸人のモノマネをして場を沸かしてくれた。


 小説というのは「驚き」があってこそ、価値のあるものとなる。僕はそれを身をもって示すために、交流会であえて腕相撲をしたのであった(なんか違う?)。

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