第20話 女子同士の戦いは醜くも美しい 6


 一方トレアリィは、天河家のリビングの白い照明の下、暗く座っている銀河の方を見て、顔を曇らせていました。

(ご主人さまが本当に可哀想……。これじゃ、アキト様のなすがままだわ……)

(一刻も早く、お体をご主人さまにお返ししてあげたい……)

(そのためには、やれることをしてあげたいけれども……)

(通信手段も封じられたし、転送もできないし、一体何ができるのか……)

(でも)

 彼女の心のなかで、熱い何かがゆっくりと動き始めていました。それは感情のマグマでした。

 トレアリィはいつの間にか、握りこぶしを作っていました。

(何か、ご主人さまにできることを)

 彼女は自然と立ち上がると、歩き出していました。その歩みは確かなものです。

 そして銀河のそばへと寄るとひざまずき、彼の手を取りました。

 その声は姫に対する忠臣のようでした。

「ご主人さま、そう、落ち込まずに。……ねえ、お部屋はどこですか?」

 銀河はしばらく押し黙っていましたが、しばらくして、

「二階、だけど……」

 とつぶやくように言いました。

 トレアリィは、花が咲いたような笑顔を見せ、

「じゃあ、ちょっと見せていただけませんか。わたし、ご主人さまのお部屋が気になるの」

 そう言うと、ちょっと強引な感じで銀河を立ち上がらせると、手をとったまま歩き出しました。地球の重力にはもう慣れた様子で、歩みはスムーズです。

 トレアリィ達が、美也子のそばをすり抜けようとした時、それに気がついた彼女は、

「ちょっと、どこへ行くのよ!?」

 大きな声で問いかけました。が、突然そばに来たディディに強く肩を叩かれ、

「ここは黙って見送るでやんす……」

 と抑えられます。

「よろしくやってくるのよー」

 ペリー王妃は、トレアリィに手を振って声援を送ります。

「でも……!」

 それでも、美也子は抗議の声を上げますが、

「ああ美也子さん。ティエラ達にも、お茶を淹れてあげてちょうだいな。よろしいわね?」

 いきなり、プリシアに声をかけられました。

 その顔と声があまりにも威圧的で、いつもの綾音とは思えなかったので、美也子は、

「アッハイ……」

 思わずそう返すのが、精一杯でした。

 彼女は、遠ざかる二人の背中を見ながら、

(銀河……)

 そう心のなかでつぶやくことしか、できませんでした。

 銀河の、心が、どんどん遠ざかっていく。

 そんな風に、美也子には思えて仕方がないのでした……。


                     *


 一方、月軌道上のグライス艦隊のステーションシップは、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていました。

「まだゲートを開けんのか!?」

「司令官、王妃様と姫さまが転送された先の弧状列島近海から、強力な転送妨害波が発信されておりまして……」

「アキト皇子の仕業か……」

 前面に大きな、地球が映しだされたスクリーンが一つ。

 その周辺に様々な情報が映しだされた小さなスクリーン群。

 それらが壁に張り付いた円形の明るい指揮所で、司令官と呼ばれる男の周りを、数十人の男女が、忙しく動きまわったり指示を送ったりしていました。

 そこに、一人のオペレーターらしき男から報告が入りました。

「提督。たった今、ディディ三〇三からの送信データが入りました。お二方の生存は確認できております」

 その言葉を聞き、黒い肌のたくましい顔と体つきの提督は、拳を握りしめました。

 そして、前面のモニターに広がる、青い星をしっかりと見据えて言いました。

「……よし、降下部隊を編成。お二方の転送場所へと向かい、お二方を保護するのだ」


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