第9話 風呂場でご主人さまと僕に囁いている 9

 ピンポーン。


 冷蔵庫の近くにあるドアホンから、電子音が飛んできました。どうやら、来客のようです。

「誰だろう、こんな時に。……もしかして綾音達だろうか。はやいなー……」

「……グダグダ言ってないでとっとと行って来い!!」

 美也子は銀河の尻を蹴飛ばし、さっさと行くように促します。

「いてて、ミャーコは相変わらずなんだから……。もしもし? どなたでしょうか?」

 銀河は、ドアホンのスイッチを押しました。

 すると、親機の画面に訪問者の姿が映し出された──。

 かと思いきや、画面にはカメラのレンズから覗く、いつもの風景が広がるだけでした。

 銀河は首をかしげました。綾音だったら、ドアホン前で待っているはず。

「ん?」

 顔をしかめた瞬間、玄関の方からドアがゆっくりと開く音が聞こえました。

 銀河は息を呑みました。

(──まさか、泥棒とかってことはないと思うけど……)

 彼は用心しつつ、玄関の方へ向かいました。すると……。

「やれやれ、未開人の玄関は自動化されてないんだな。手間をかけさせる……」

 玄関の土間にはトレアリィと似た、ぴっちりした青い服装の「人間」が立っていました。

 その「人間」は男のようにも見えますが、どことなく女性的な線を持っている、不思議な雰囲気を持った人物です。

「誰? どんな御用ですか? ……いきなり入ってこられても失礼なんですけど?」

 銀河は表面上は冷静に、ごく当たり前な応対をしました。が、唇は引き締まっています。

(──こいつ、トレアリィと同じような服装? もしかして?)

「ああ、私か。イズーと言うものなんだけどね。何、ちょっとした用事があってね」

 イズーと名乗った人間は、腰に片方の手を当て、もう片方の手で髪をかき上げました。

 その声を聞いたトレアリィの顔が、不機嫌なものになりました。犬が警戒するかのように。

 即座にディディが、コミュニケーターの秘匿通信で銀河と美也子に告げます。

〔銀河はん、美也子はん、大変でやんす!〕

〔あれは誰? トレアリィが不安そうだけど……〕

〔あやつが姫様を追っていたストーカーでやんす!〕

〔〔なんだ〔です〕って!?〕〕

 そうです。

 その異星人が、トレアリィにつきまとっていた異星人のストーカー、イズーだったのです。

 脳内で銀河と美也子は声を合わせ、それから、

〔もう来たの!?〕

〔展開早っ!?〕

 と、それぞれ驚きました。

 追ってくるだろうとは薄々予想していましたが、こんなに早く来るとは予想外です。

「ここにトレアリィがいるのだろう? 彼女が遭難したというので、引き取りに来たんだが」

 イズーは、そう言って家に上がろうとします。土足のままで。

(あ、上がっちゃう! ……こうなったら、一世一代の大芝居を打つしかないか。よし、やるぞ!)

 銀河は意を決すると、息を大きく吸い、一歩足を踏み出しました。

 シェイクスピア劇の役者のように。

 そして……。

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