ポーテスのテルモポリウム

開業資金はボルケーノの餞別でまかなった。ポーテスは素焼きの壺や石材を買い込んで奴隷を雇い小さな食堂を建てた。もともとこの付近の人々は主食や総菜以外に香辛料の効いた嗜好品やデザートを好む商業的な食文化を持っているようだ。

街の高台に鎮座する火山が物見遊山の客を呼び込んでいる。そんな環境で外食産業が栄えている。ポーテスは出遅れを悔しがった。しかしたけしの記憶に刻まれているようなファーストフードやテイクアウトは普及している気配がない。

ここぞとばかりにポーテスは商才を発揮した。風光明媚な景色を眺めながら摂るランチはたちまち観光の目玉になった。


ポーテスが21世紀のデザインセンスを取り入れたからだ。先取りといっても過言でない。横長のカウンターをしつらえ列をなす客から注文を受けて調理に取り掛かる。暖かくて出来立てが味わえるとあってポーテスの店はますます繁盛した。さらに彼は調子に乗る。バリアフリーだ。

セットメニューを大きな絵で誰にも判りやすく描き、カウンターテーブルの頭上に掲げた。

こうした努力が実ってポーテスはぬくぬくと肥え太った。ときおり本店奥のボックス席で常連と雑談に興じている。

その中の一人が不気味な噂をささやいた。

「火山が爆発するってよ」

すぐさま失笑がわきおこった。

「そんなの出鱈目だ。ローマ皇帝もとうとう焼きが廻ったか。イチャモンに事欠いて俺を天にかしずかせるとはな!」

ポーテスすらも一笑に付した。

「店を閉めて早く逃げた方がいい」

やがて友人たちが口を酸っぱくして避難勧告の正当性を主張し始めた。

それでも店主と常連は密を解こうとしない。


その日が来るまでは。

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