文明開化

天はポーテスに味方した。育成ゲームをCPUモードで早送りするように岩場がどんどん削られていく。整地された土地がローマ式コンクリートで舗装され石造りの街がせりあがる。


気づくとジュピター神殿の陰に寝そべっていた。穏やかな風が四肢を洗う。少し向こうの丘にはブドウ畑が拓けており石畳の敷かれた道路は碁盤の目の様に家々を区画している。灌漑されているという事は水道網が発達している。ポーテスはたけしの衝動に突き動かされて公衆浴場へ走った。すれ違う人々は清潔感にあふれている。水場は一般に開放されているらしく老若男女問わず行水している。ポーテスは行く道すがらアポロやイシス神など雑多な神像に出くわした。宗派に見境がないらしくまるで前世の日本のようだと感じた。

それがポーテスに起業のヒントを与える。

ここはやはりローマだ、とポーテスは直感した。通りは人種の坩堝だ。見覚えのあるローマ市民、解放奴隷やアフリカ人など異邦人、さまざまな人種で混雑している。

この社会の豊かさは市場の品ぞろえに現れる。ポーテスは興味津々に見て回った。主食である大麦に小麦、色鮮やかな野菜。みずみずしい果実。香ばしい木の実などレシピを考えているだけで楽しくなってくる。

「これはレンズ豆? エジプト産か」

異世界開拓用にインストール済みのチート知識が自動的に補ってくれる。手にした食材が香辛料であったりナツメヤシであったり玉手箱を開ける気分だ。


西日が傾くころポーテスはアイデアをまとめた。

客層が厚い。そして食材はバラエティーに富んでいる。

これはひょっとしたらひょっとする。

外食産業がこの世界で成り立つんじゃなかろうか。

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