ぜったい婚約破棄
水原麻以
ぜったい婚約破棄
「転生した日に死亡フラグってあんまりだわ」
公爵令嬢バッジョは石畳にうずくまった。そのまま頭をぶつけて絶命したい。最初は慣れない日差しと市場の喧騒にやられたと思った。日傘をさしてくれる侍女も護衛のくノ一もいない。お忍びで港に来た。ちょうど凱旋してくる艦隊を歓迎する式典が準備されている。人出を当て込んだ市が立ち並び三原色の花や彩度の強い衣装を商っている。そしてなんとも香しい屋台がひしめいている。
思い出した。ここはブラウザーゲーム「ブロークン・セレブリティ~剛毅破天荒の花道」のバッドエンディングだ。
それも最悪の選択肢。小公女バッジョは甲斐性なしや逆玉狙い、見栄っ張りの浪費家、亭主関白、要介護両親の長男といった地雷物件を巧みにかわし海軍提督子息リーマボルトを無敵艦隊壮行式で見事に射止めた。
これといった特徴のないリーマボルト・ヘリオスであるが親の七光りで陣頭指揮とは縁遠い参謀本部付き事務方の座に就いている。
夫の帰りを心配せず定時に公舎へ戻ってくる。バッジョは夕膳を整え清拭の湯を簡易呪文で温めておけばよいのだ。
戦局は安定している。余人をもって代えがたいブレーンが揺れ動く甲板に応召される危険もない。対岸の火事を見物しながら子供を育て王立アカデミーに送り出せばよい。公務員は誰もがうらやむ職業だ。
それではどこが地雷かと言えば凡夫で真面目なリーマボルトの性格そのものだ。人生設計図を老後までガチガチに引きすぎて夫婦生活は窮屈このうえない。万一に備えた保険や月々の積立預金で夫の手取り収入は綺麗になくなる。
ヒット中の歌劇や家族旅行など臨機応変な娯楽と無縁な家計。
結婚に王道はないと締めくくってゲームオーバーとなる。
「いやだわ。こんな夫婦生活。箱入り娘は聞いたことがあるけど墓入り嫁はありえない。絶対!ずぇったい破棄してやるんだからネッ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます