カンガルーボクシング
水原麻以
ウォッチャー姉妹
「★%&#$♂!」
ジャングルの霊長類か猛禽を思わせるような奇声が響き渡る。場所は熱帯雨林気候から程遠い気温氷点下の都心部。違法駐車凍り付いている。
三十何年ぶりの積雪で交通機関が凍結するばかりか、怪我人まで出ているありさまだ。そんな環境に適応できる生物とは何とは何だろう。事故物件に住まう地縛霊の類でないとすれば常軌を逸した人間の声だ。
「(゚∀゚)」
「お姉ちゃん。みっともないから顔文字で笑うのやめて」
雪に半ば埋もれた民家から若い女性の笑い声が聞こえてくる。霜のついたガラス窓の向こうで制服姿の姉妹が絡み合っている。
スカートの中が丸見えになるのも気にせずパソコンの前で笑い転げる女子高生。それを中学校の制服を着た少女が諫めている。
「だって、これヲチネタにうってつけだもの」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
自身は特に小説を書いたり読んだりすることもなく、ただただ「ござるよ」作家の一挙一動をあげつらう暇人が集う掲示板がある。匿名である立場を隠れ蓑にしてストーキングに心血を注ぐ集団だ。本人たちはウォッチングだと言い張る。特定個人の揚げ足取りを取り無責任な誹謗中傷を連ねる行動のどこに生産性があろうか。同列に並べられてはバードウォッチング等の趣味人も迷惑だろう。
和名はその一人だった。
まことダメ人間の鏡というか。何がここまで彼女を歪ませてしまったのだろうか。その原因は大雪にある。入試当日に交通機関の乱れまくり、人生の大勝負に参加できなかった。その憤りを巨大掲示板にぶつけていると考えられる。
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