ピン女史の世界緊急大放送?
「今夜、大統領からみなさんに重大な発表があります」
真綾はミーさま❤の動画に心を躍らせる。タイガートーチ大統領はマッチョを絵に描いたような筋肉質で映画俳優そのものの顔立ちだ。おまけに実業家で大富豪。日本人女性ばかりでなく精悍さが男性にも受けている。
その大好きなタイガートーチが選挙で敗北を喫した。
ありえない。陰謀だ。何か裏があるんじゃないか、とファンは憤った。
そして彼をますます神格化しはじめた。モテればいいってもんじゃない。
タイガートーチの取り巻きはどうにかして選挙結果を覆そうとなりふり構わず行動している。ピンも熱心なサポーターだ。
そのピンが言うには各自の携帯に大統領から直々のメッセージが届くという。
具体的には緊急地震速報のような形で配信するという。
確かにたいていのスマートフォンにはマナーモードを無視して警報を鳴らす機能が備わってる。
「マスコミやプロバイダーは秘密結社に支配されています。大統領のメッセージをお届けする方法は他にありません」
ひっどぉい。何なのよこれ、と真綾は憤った。
無理もない。インスタ映えに感化されて嗜好をコロコロ変える鳥頭に不信感を持てという方がおかしい。スポンジ脳は純情やの代償なのかもしれない、誇張と曲解に満ちたおどろおどろしいストーリーを素直に吸収した。
もっとも人が人を崇拝するにはそれなりの信頼関係や親密感が不可欠だ。赤の他人をいきなり盲信したりはしない。そこで用意周到だ。タイガートーチの美談が添えてある。
彼がまだ一介の起業家だったころ交通渋滞に巻き込まれた。
「大口の取引に間に合わない」
焦っていると隣の車線にバイクが停まった。「おや、タイガートーチさんじゃないですか。お困りのようですね」
たまたまメディアで顔を知っていた男が搬送を申し出た。タイガートーチは約束の時間に間に合った。
「君に謝礼をしたい。何がいいかね」と聞かれて男は答えた。
「病気の妻を宅配ピザの仕事で支えています」
一週間後、タイガートーチから連絡があった。
「治療費の問題は解決した。ピザチェーンの株はすべて君の名義だ」
ド直球が真綾の胸を貫いた。「タイガーさん…」
感動に目を潤ませ、せっせと拡散に勤しむ。
キャスの視聴者がはけてオフラインになった。カメラのレンズに禿散らかした中年男が盛り上がる。
「カーッ、たるい~」
ストロングの空き缶を足で掃きながらブルーシートを畳む。饐えた吐息が40インチ液晶画面を曇らせた。そこには専用のアバターが佇んでいる。
「ネカマを2時間も演ってると死ぬるわ」
ミーさま❤のプロフィール画面に収益が計上されている。ピン女史は金になる。1本で百万円は稼げる。
「
そう蔑むと手塩にかけて育てた自キャラやアイテムにイイ値段をつけて出品し始めた。
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