東京町田にクルマを買いに
詩川貴彦
プロローグ
プロローグ
2002年の4月17日午後7時のことでした。
なんか知りませんけど、ワシは駅のホームで小郡行きの鈍行列車を待っていました。すっかり暗くなった空から、大粒の雨が落ちていました。頼りない蛍光灯の灯りが、銀色の雨の景色を照らしていました。
ワシはこれから東京の町田というところにクルマを買いに行くところでした。3月いっぱいで仕事を辞めたばかりでした。お金も時間も限られていましたが、ワシはなぜかワクワクしていました。ひと月前には考えてもいなかった「こと」が動き始めていました。なぜこんなことになってしまったかというと・・・。
それは突然のことでした。借りていた車庫を突然立ち退くことになりました。バイパス道路がワシの車庫のど真ん中を通るというのです。
借りている車庫には2台の車が入っていました。ワシはお金もないのにクルマ道楽のクルマ持ちでした。日頃乗っている「いすゞのウイザード」のほかに、「日産キューブ」と「本田技研工業の某スポーツカー」がありました。ワシは貧乏なのに几帳面で、愛車たちを野ざらしにするのが嫌でした。それならと車庫探しを始めたのですが、露天の駐車場が関の山でした。そして愛車達を野ざらし雨ざらしにするぐらいなら、いっそのこと売ってしまおうと決意しました。
実は車庫の事情と同時期に、仕事を辞めることになっていました。無職になって生活がたいへんになることは目に見えていました。ちょうどいいタイミングっちゃあタイミングだったと思います。キューブは知人に売却し、残債を支払って名義変更(サービスでワシがやりました。)等をしたらトントンで、とりあえずキューブの残債はきれいになくなりました。某スポーツカーは、オークションにかけたら意外に高く売れました。でも悲しかった。残りはディーゼルのウイザードだけとなり、とりあえずローンもなくって、すっきりした気分で無職生活を始めることになったのでした。とりあえずめでたしめでたし。
と思っていたら、そうは問屋が卸さないのがいつものワシの運命だったのです。
「東京町田に行くこととまったく関係ないじゃん。」と苦情がきそうですが、これから始まる第1章から、運命の糸がだんだん絡まって巻き付いてどうしようもなくなってきますのでお楽しみにしておいてください。
詩川貴彦
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