tear fragments.
百萬リヲ
第一章『カタストロフの綻び』
prologue
全ての物語が、必ずしも大団円を迎えられるとは限らない。
たとえば、結末に迫るような、重大な選択肢を与えられたとしよう。その中で最善のものを選べば、本来至るべき結末を迎えることができるかもしれない。もちろん、最悪のものを選んでしまった場合は、不幸な形の結末を迎えてしまうことになるかもしれない。
しかし、選択肢の中には、最善ではないけれど、最悪ともつかないようなものが存在することだってあるだろう。その場合は、理想としていた結末ではないにしろ、まあ悪くないかな、なんて、酷く曖昧な結末に至ってしまうかもしれない。
なんにせよ、全ての物語が至るべきは、最善の選択によって導かれた『真のハッピーエンド』ってやつだろう。特別な理由がない限りは、誰もが報われ、誰もが幸せを享受できるような、そんな結末を迎えられるに越したことはない。
だから、人々には『真のハッピーエンド』に至るために、それ以外の選択肢を切り捨てる必要が迫られる。けれど、どの選択肢が最善のものであるかを明確に判断することは、多くの場合で難しいだろう。それ故に、人々は選択を誤り、必ずしも正しいとは言えない道を歩み、時には妥協し、時には妥協すらできないような結末へと進んでいく。
しかし、その結末は間違いなのだろうか。否――。
僕は、そんな最善ではない選択を行ってしまった物語たちを、『断片』と名付けた。
最善の結末へと歩むためには、必要のない選択肢。それを選んでしまったがために、誤った未来へと突き進んだ世界線。「もしかしたら、そうなっていたかもしれない」なんて、憶測で語られる物語の切れ端。
僕はそれを、酷く哀れんだ。まるで、自分のことのように感じられたから。
生まれた時から、用意された悲劇へと歩んでいくだけの運命を背負う、僕のようだったから。
僕らには、幸福な結末が訪れることはない。それは確定事項で、何をしても未来を変えられない中、いつの日か訪れる正しくない終焉を迎えるだけの時間を過ごさなければならない。
ただ、僕と断片の違いといえば、僕がすでに自分の結末を知っていることに対して、断片は自らが正しくない結末を迎えることを知らないことだろう。しかし、余命を知っている分、僕の方が優位かと言われると、決してそんなこともないとは思うのだが。
とにかく、僕らは報われる見込みのないもの同士だ。足掻こうが足掻かまいが、いつの日か必ず最善とは言えない結末が迎えに来るのなら、それが突然明日になったところで何も変わりはしないだろう。
「だから、精一杯足掻いてみようよ。失敗したって、もともと希望がないんだから」
数学でも、負の数と負の数を掛け合わせれば、プラスになるのだから。希望のないもの同士で手を取り合うことで、新たな未来を進むことができるようになる可能性は、決してゼロではないだろう。……という、根拠もない僕の希望的観測の中。
どうせ、僕らは真っ当ではない道を進むしかないのだ。ならば精一杯外れた道を歩き、精一杯足掻いてみせようではないか。
断片は、最善とは言えなくとも、より善い結末を迎えられるように。
僕は、自身に課せられた悲しき運命を回避できるように。
――これは、幸福以外の未来を約束されたものたちが、手を取り、運命に抗う物語である。
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