聖女の容態

「おまたせっ!」


 リビングに入ると、シュゼットとクリスはすでに身支度を整えていた。フィーアを連れて、あわてて入ってきた私を迎える。


「まだ約束の時間まで間がありますわ。そんなに慌てなくてもよろしくてよ」

「ひさびさに、ジェイドから報告を受けていたんだろう? もっとゆっくり話しててもよかったのに」

「必要な話はちゃんと全部聞いたから。それに……」


 私は後ろに控えるフィーアを見た。

 フィーア同席でジェイドと話してると、相変わらずなんとも言えない空気になるんだよね。彼らの婚約問題は、一か月以上たった今でも絶賛こじらせ中である。

 フィーアに邪険にされているジェイドがあまりにかわいそうで見ていられず、早々に会話を切り上げてしまった。

 従者の恋愛問題ムズカシイ。


「何か新しい情報はあったか?」

「父様のダルムール兵討伐作戦は順調に進んでいるそうよ。フランたちがスマホを通じて後方支援をしているみたい」

「後方と密に連絡が取れるのは、やはり助かるな」


 うむうむ、とクリスがうなずく。


「それと、地形の把握ね。監視衛星で魔の森全体を分析できるでしょ? 危険な底なし沼や毒の発生する泉を避けて通れるから、兵の損耗が少ないって」

「危険地帯をあらかじめ予見できるなんて、ますます便利ですわね」


 もう驚く気も起きないらしい、シュゼットは苦笑した。


「フランのことだから、ただ避けるだけで終わってなさそう。敵兵を追い詰めるのにも使ってるんじゃないの」

「あの方なら、それくらいやりかねませんわね」


 なぜか必ず安全地帯に陣取っている最強騎士。

 退路はすべて毒沼にふさがれていて、気が付けば逃げることも進むこともできなくなっている。

 そんな戦場、怖すぎる。


「あとは……そうそう、セシリアのことも聞いたわ」


 離宮に移ってから、ずっと会えていない友達の名前をあげる。

 実を言うと、ジェイドは二日前からハルバードの屋敷に強制収容されている。ずっと働きづめでついに倒れたから、フランが屋敷に戻したのだ。睡眠をとって体調を戻すついでに、あちらの様子も確認してきてくれた。


「意識が戻ったのか?」


 クリスが気遣わしげな顔になった。彼女は大地震のあと、倒れたセシリアを直接介抱している。だから余計心配になるんだろう。

 でも私は首を振った。


「ううん、まだ眠ったままだって」

「そうか……って、うん? おかしくないか?」

「セシリアが倒れてから、もう一か月以上たちますわよ? その間ずっと眠っているんですの?」


 ふたりの疑問は当然だ。

 人間が生きていくためには、定期的な飲食が必要だ。

 現代日本で意識不明で何年も寝たきり、なんて話ができるのは、高度な医療技術で生命活動を維持できるからだ。

 点滴どころか、注射器の存在すら怪しいこの世界で、意識のない人間を一週間以上生かし続けるのは至難の業だ。せめて水を口にする程度の意識レベルがなければ、体をもたせられない。


「でも、生きてるのよ。セシリアは」


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