離宮警備事情
「それで、王宮の外はどうなってるの?」
みんなで仲良くナッツのタルトをわけてから、私はヴァンたちにたずねた。ふたりはお互いに目くばせを交わしあう。
「その前に、離宮の状況が知りたい。入ってくるとき、タニアとフィーア以外に使用人を見かけなかったが、誰がどう警備してるんだ?」
警備が気になるということはつまり、それだけ他人に聞かせられない話がしたいってことなんだろう。私はこくりとうなずいた。まずはお互いのカードの確認だ。
「離宮に常駐している人間の護衛は、フィーアとタニア。それから橋の手前に配置された警備兵だけよ」
「正気か?」
「こっちには神の目があるもの」
タニアがお茶をサーブして引き下がったのを確認してから、私はスマホをテーブルの上に置いた。画面にブサカワ系ちょいぽちゃ猫の姿が表示されたかと思うと、次の瞬間には建物の風景が何枚も表示された。それらは、どれも王宮の風景を映し出している。
「橋と堀を中心に監視カメラが五か所、さらに夜間はドローン二台で周囲を警戒してるわ。もちおが常に画像を解析して、不審な影があれば即座に通知、迎撃する仕組みになってる」
二十四時間三百六十五日、一時もかかさず監視ができるのはAIの強みだ。
「なるほど、超兵器があるから、下手に人員を増やさないほうが安全なんだ」
「護衛騎士は全員父様と宰相閣下の配下ってことになってるけど、ここは王宮だからね。どこに王妃派が潜んでるかわからないわ」
今回の離宮ぐらしは急に決まったことだ。護衛を増やそうにも騎士の素性をひとりずつ確認している時間はない。いちいち警戒するくらいなら、いっそいないほうがマシだ。
「本当はジェイドも常駐させたかったのよね」
私は最も身元の確かな側近の名前を出す。彼は魔法をはじめとした多彩なスキルを持っている。これほど心強い味方は他にいない。
「だが、離宮は男子禁制じゃなかったのか、とローゼリアとかいう王妃派侍女につっこまれて、外に出さざるを得なくなった」
「それは俺のせいだな、悪い」
ヴァンが悔しそうにツメを噛む。
もともとこの離宮は彼に接する人間を制限するために作られた。
力の強い男性騎士は真っ先に排除されたのだろう。
「気にするな。お前が生き残るためにできたルールだ。いまさら言ってもしょうがない」
それを聞いてケヴィンが素朴な疑問を口にした。
「ジェイドは今どこで何をしてるの? おとなしく外で待つタイプじゃないでしょ」
「フランについてもらってるわ。今の宰相家は人手がいくらあっても足りないから」
「あー……なるほど。だからあの機動性なわけか」
ヴァンがすうっと目を細める。
おや、何を知っているというのかな?
「思わせぶりなこと言ってないで、話すならちゃんと話してよ」
「お前こそ、あいつとスマホでつながってんじゃないのかよ」
「フランもジェイドも、みんな忙しそうでなかなか話しかけられないのよ。離宮にひきこもってるから、噂話も拾ってこれないし」
フランとゆっくり話せたのは、結局初日のあの夜だけだった。
その後は夜でも昼でも取り込み中で、たまにメッセージアプリ越しに返事があるくらいだ。
私だって、この大変な時に『私と仕事、どっちが大事なの?』と、鬼着信するほどバカじゃない。相手に配慮して連絡を控えるしかない。
一番時間に余裕がありそうなのはAIもちおだけど、彼は彼でアクセスできる情報に限りがある。監視衛星で王国全土を撮影するのは得意だけど、密室で人の口に上る話を聞きこんでくるのには向いてない。
「災害が起きて一か月、外はどんな状況なの?」
「良くはねえな。全然」
王宮の外で生活していた少年ふたりは、断言した。
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