幕間:報告会(ローゼリア視点)

「……そう。小鳥は全部、籠から逃げてしまったの」


 報告を聞いて、王妃様は目を伏せた。白い頬に影が落ちる。

 整えられた指先が、とん、とん、とひじ掛けを叩いた。

 これは彼女がとても機嫌が悪い時のしぐさだ。


「せっかくあれほどお膳立てをして……宰相に直接交渉までしたのにね……」

「……」


 何とも返答できず、私は沈黙する。

 王妃様は意見も言い訳も必要としない。

 私がここで何を進言しても、不快感をあおるだけだ。


「小鳥は要塞の中へ。私に残ったのは、小娘ひとりもてなせない無能者という評価だけ。ミセリコルデの者たちは、これ幸いと批判してくるでしょうね」


 ふう、とさらに吐息が漏れる。


「今度はどれほどの権限が取り上げられるか」

「も、申し訳……ありません……」

「謝罪は不要よ」


 決して許しているのではない。

 王妃様が求めるものは、『成功した』という報告だけだ。

 今までどれほど成果をあげていても関係ない。彼女の求める言葉を発せない者は等しく無能で無用の存在である。

 これは切り捨てられる前兆だ。


「……あなたを拾ったのは、間違いだったかしら」


 私を見る青緑の瞳はどこまでも冷えている。


「連座にかけられる子供に哀れを覚えて、懐にいれてはみたけれど、こうも役にたたないのではね。わざわざ危険を冒して、あなたをそばに置く理由って何かしら」

「お……恐れながら!」


 私はたまらず声をあげた。

 私が今生きて王宮にいられるのは、王妃様の側近だからだ。

 不要と判断された瞬間、私の首は断頭台にかけられる。


「まだ小鳥は森のなかにいます。必ずや、あなたの望む姿へと変えて見せましょう」

「好きにしなさい」


 王妃様は立ち上がった。

 背を向けて部屋から去っていく。


「私が聞きたい、と思う報告以外耳に入れないように」

「かしこまりました……」


 支配者は振り向きもせずに去っていく。

 部屋にひとり取り残された私は、こぶしを握り締めた。


「まだ、まだよ……」


 私には復讐すべき相手がいる。


「宰相家も、ハルバード家も、絶対に許さない。そのために何だってやってきたのに」


 一矢も報わずに死ねない。

 あんな小娘ひとりに手こずっている場合ではないのだ。

 罠のことごとくを台無しにした生意気な小娘。

 ハルバード家というだけでも腹立たしいというのに、宰相家に守られ、モーニングスター家からもクレイモア家からも助力される。誰もかれも、なぜあんな小娘ばかり守るのだ。

 ……いや、守られるからこそ。


「あの娘が壊れた時、周りはどれほど悲嘆にくれるでしょうね」


 そうだ、やつらは私の大事なものを奪っていった。

 ならば彼らの一番大事なものを奪ってやればいい。


「リリアーナ・ハルバード。お前だけは、絶対に殺す」


 決意を胸に、私は次の計画の準備を始めた。


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書籍⑤巻発売まであと1日!

詳しい情報は近況ノートとXにて

@takaba_batake

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