事前説明会

 騎士たちが用意した会議室には、すでにシュゼットとクリスがいた。父様が目くばせすると、室内警備をしていた騎士たちがさっと出ていく。一般兵には聞かせられない話、らしい。

 父様の姿を認めたシュゼットが腰を浮かせた。


「ハルバード侯……あの」

「お疲れでしょう、挨拶は不要です。どうぞ、座ったままで」

「ありがとうございます」


 父様に制されて、シュゼットはすとんとソファに逆戻りした。

 どこでどう都合をつけたのか、シュゼットは昨日までのだぶだぶの騎士服から、真新しい女子制服に着替えていた。あんな恰好のまま、他国の姫君を移送できないってことなんだろう。

 私たちもそれぞれ席につき、全員が聞く体制になったところで、父様がシュゼットに向かって深々と頭をさげた。


「シュゼット姫様、このたびは女子寮の不具合など、多くのご不便をかけ申し訳ありません」

「いいえ、すべては人知を超えた災害によるものです。お気になさらないで、頭をあげてください」

「お言葉、感謝いたします」


 父様はすっと背筋をただした。そして懐から何か黒いものを取り出す。


「これからの予定について、ご説明させていただきます」


 ことん、と小さな音をたててテーブルに出されたものを見て、私たちは息をのんだ。手のひらサイズの、ガラス質で真っ黒な板。昨日から私たちの間で使われている通信機器、スマホだ。


「お父様?!」


 私やクリスたちはともかく、シュゼットは外国人だ。国家機密をホイホイ見せていいわけがない。私たちが慌てていると、父様は軽く肩をすくめた。


「シュゼット姫様おひとりだけであればコレを見せても良い、と宰相閣下から言付かっている。大丈夫だ」

「そ、そうなの……」


 宰相閣下の決定なら、私が口を出すことじゃない。

 それだけシュゼット姫を信用に足る相手だと判断しているんだろう。


「リリィ? あの黒い板は何ですの?」

「ハーティアの国家機密。何をする道具かは、見てればわかるよ」

「さすがに、シュゼット姫にまでコレをお渡しすることはできません。しかし、どんなものかは知っていただいたほうが、話がしやすいとのことです」


 父様はスマホをこちらに向けて立てると、画面の電源を入れた。ナビゲーション用のちょいぽちゃブサカワ猫が表示される。


「もちお、宰相閣下につないでくれ」

『かしこまりました』


 もちおがこくりとうなずくと、すぐにコール音が鳴りだした。

 突然鳴り出した異質な音に、シュゼットがびくっと体を震わせる。


「な……何が起きてるんですの? それに、あの猫は何なの?」

「怖いことは起きてないわよ。直接話すために宰相閣下を呼び出しているだけ」

「ええ……? しかし、あの方は今、現場で災害対応の陣頭指揮をとっていらっしゃるはず」

「そんな忙しい人と話すための機械なの」

『お待たせしました。皆、そろっているようだな』


 困惑しているシュゼットの目の前で、画面が切り替わった。

 どこかの臨時指揮所なのだろう、天幕を背景に宰相閣下の姿が映し出される。


『三日ぶりですな、シュゼット姫』

「え……ええ、またお会いできてうれしい……ですわ」

『ご不便をかけたこと、直接謝罪したかったのですが、このような形になって申し訳ありません』

「いえ、災害は誰が悪いわけでもありませんから。閣下がお忙しいのは承知しております」

『ありがとうございます、そう言っていただけると助かります。さて今後ですが……皆様には、王宮に避難していただきます』

「はい」


 こくり、とシュゼットがうなずく。それはもとから聞いていたことだ。


『そして、王宮での姫様の接待役なのですが……叔母上のカーミラ様が担当することになりました』

「え」


 それ、ダメじゃね?

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