悪役令嬢は王宮で過ごしたい
正規兵の実力
「団長、女子寮のがれき撤去準備完了しました」
「ご苦労。上層部から順に解体してくれ。貴重品は丁重に保管すること」
「かしこまりました!」
王立学園に派遣されてきた王立騎士団第一師団の救助活動は、めちゃくちゃに手際がよかった。彼らは学園敷地に入るやいなや、建物自体が倒壊した女子寮を中心に、大きな被害を受けた建物の整理を始めた。そのかたわら、学園に住めなくなった生徒たちの避難準備を進めていく。
その動きには一切の無駄がない。
「俺たちも頑張ってたつもりだが、やっぱ本職にはかなわねえな……」
生徒たちの指揮をとっていたヴァンが感心半分、くやしさ半分で現役近衛騎士を眺める。父様はクスクスと笑った。
「いや、君はよくやったほうだ。想定よりもけが人が少なく、物資の損耗も軽微だ。住む場所を失った女子を抱えていなければ、男子生徒だけであと一か月は持ちこたえられただろう」
「うまくやってたら、救助が一か月後回しにされてたって聞いて、喜んでいいか腹たてていいか、ちょっとよくわかんねえんだけど」
わかりづらい父でごめん。
本人はストレートに褒めてるつもりだと思います。
「さすが花形部隊第一師団……あれっ? でも民間人の救助は近衛の仕事ではないような」
彼らの職責は王族とかの要人警護が主だったはずだ。
それを聞いた父様が苦笑した。
「汚職騎士の追放を期に部隊の再編制が進んでな……今の第一師団は有事の際に独立行動可能な遊撃隊、つまり何でも屋のようなものだ。昔ながらの近衛部隊はまた別に編制されている」
「ハルバード候ほどの実力者を、王族のそばに立たせておくだけなんてもったいないですから」
状況報告のために後ろに控えていたフランが付け加えた。父様は深々とため息をつく。
「君の御父上の人使いの荒さに、驚かされる毎日だよ」
そういえば、父様を今のポストに推したのは宰相閣下だった。
あの有能宰相が放っておくわけがなかったわー。父様の自由すぎる気質を考えると、下手に要人警護をやらせ続けるより身軽な精鋭遊撃部隊として運用したほうが向いてそうだし。
「団長、避難用馬車の準備ができました!」
「ご苦労。では東地区から順に生徒を送り届けろ」
「はっ!」
父様の指示を受けて、また騎士が走っていく。
彼らは生徒たちを地区ごとに振り分け、それぞれ親元まで送り届けるらしい。その中には東の商人街に自宅のあるライラの姿もあった。彼女とはここで一旦お別れだ。
「王都に保護者が確認できる者はそちらへ。地方出身で王都に保護者がいない者は一旦こちらで引き取る。男子は騎士団預かり、女子は王宮預かりだ」
「身元引受人が誰か確認が取れない者はどうしましょうか」
「学園にそんな者がいるか?」
父様が首をかしげる。
王立学園は身元が明らかな上流階級むけの学校だ。男子部には庶民もいるけど、彼らだって地元の領主や有力者から推薦を受けた者ばかりだ。後見人のいない生徒は存在しないはずである。
「女子名簿のうち、ラインヘルト子爵家のご息女の家族欄が全員死亡で空白になっています。本人に身元引受先を訪ねようにも、意識不明で治療中でして……」
「ラインヘルト? 聞いたことのある名前だな」
「私の友達よ!」
思わず会話に割って入ってしまった。淑女としてははしたない気がするけど、友達を引受先不明で変な扱いさせるわけにはいかない。
「セシリア・ラインヘルトはカトラス侯爵家の身内よ。侯爵本人が後見人になってるわ」
「ふむ、ならば侯爵家の屋敷に送り届けるべきか」
「しかしカトラス侯は現在、王都にいらっしゃいません。保護者本人のいない屋敷に意識のない女子をただ預けてよいものか……」
「しかし王宮の医務室で面倒を見るのもな」
「あ、あのっ、お父様! セシリアをうちで預かれないかしら!」
私はたまらず再度口をはさんだ。
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