避難生活の朝

 翌朝、私たちを叩き起こしたのは、スマホの振動音だった。

 もちおから報告をもらった私とクリスはすぐに身支度を整えて、フィーアを連れて外に出る。門に向かって歩いていると、ヴァンとケヴィンの銀髪コンビがやってきた。


「ふたりも、スマホに起こされたとこ?」


 尋ねたら、ケヴィンは首をすくめた。


「そんなところだね」

「いきなり枕元で音がするとびっくりするのな……」


 ヴァンがしかめっつらで首を振る。

 スマホ目覚ましは現代日本人にとって割とよくある日常だけど、ファンタジー育ちのふたりには完全な非日常だ。驚くのも無理はない。


「そのうち慣れるわよ。そういえば、フランとジェイドは?」


 スマホが支給されているのは彼らも同じだ。連絡を受けた彼らが、そのままじっとしているとは思えない。


「あのふたりは先に門に向かってる。俺たちはリリィたちと合流しておけって」

「わかったわ、行きましょ」


 私たちは並んで門に向かう。

 門へ向かう理由は昨日と同じ。学園に何者かが近づいてきている、ともちおから報告を受けたからだ。

 同じ訪問者の接近にも関わらず、のんびり対応してるのは、彼らが見知った相手だからだ。


「フラン!」


 城門の裏側から、物見やぐらに声をかける。

 黒髪に黒衣の青年がさっとこちらを振り向いた。彼の隣には白いマントを羽織った黒髪の青年の姿もちゃんとある。


「状況は?」

「もうすぐ到着しそうだ。お前たちも確認するか?」

「はーい」


 私たちはぞろぞろと物見やぐらを上がっていく。


「わ……本当に来てる」


 王立学園と王都を結ぶ街道には多くの人影があった。

 整然と歩を進める騎馬と歩兵。そして物資を乗せた荷馬車たち。その規律正しい様子を見るだけで、彼らが正式に訓練を受けた騎士たちだということがわかる。

 ハーティア王国騎士団、正規兵だ。

 宰相閣下の『救援を送る』という約束が、早くも実現したらしい。


「まさか、一晩で援軍が来るなんて思わなかったわ」


 驚く私を見てフランが苦笑する。


「ここにいるのは重要人物ばかりだからな。それに、指揮官自身がいてもたってもいられなかったんだろう」

「指揮官?」

「先頭の騎士をよく見てみろ」


 フランに促されて、騎士たちの隊列に目をこらす。

 彼らの先頭はひときわ雄々しい黒毛の軍馬だった。跨っているのは立派な騎士服を着た美丈夫だ。指揮官らしいその騎士の立ち姿には見覚えがある。ここからは黒髪までしか確認できないけど、きっと間近で見たら瞳の色は私と同じ赤なんだろう。


「お、お父様……?!」


 この忙しい時に、第一師団長が何やってるのよ?!


「ここにはハーティア唯一の跡取王子と、隣国の王女がいる。第一師団長がわざわざ迎えに来ても不思議はないんじゃないか」

「おかしくはないけどね?」


 絶対半分くらいは私情だと思うの!




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