場数
「思ったより……味は普通ですのね」
パンをスープにひたして、おそるおそる口に運んだ異国のお姫様は、びっくり顔のままつぶやいた。
「言ったでしょ、食材はいつもと一緒だって」
「はい、おいしいです」
一口食べて、ふっきれたんだろう。シュゼットもライラも、もくもくと食べ始める。
やっぱりお腹はすいていたみたいで、一口食べるごとにその顔色が明るくなっていった。
それを見て、講堂の奥からまた女の子が何人かずつ出てきた。彼女たちもまた、私やシュゼットたちをじっと観察してから、ヴァンたちのもとへと歩き始める。
「これで、よし」
流れができたらもう大丈夫。
私はひとり、またひとりと食事を始める女子生徒から視線を外して、自分の食事を再開した。騎士科の男の子たちがせっかく作ってくれた手料理だ、完食しないともったいない。
スープの最後の一滴までパンでぬぐって、顔を上げたらこちらをじっと見るシュゼットと目があった。
「どうしたの? 何か嫌いなものでも入ってた?」
「いいえ。食事に問題はありませんわ。ただ……あなたの肝の太さがつくづく信じられなくて。どう教育されたらこうなるのかしら」
「ん~~教育っていうより、私のはただの経験則よ」
「経験……?」
「十一歳の時に執事と直属の騎士隊に裏切られて、兄と従者だけで山の中を逃げ回ったのに比べたら、こんなのピクニックと変わらないから」
「え」
私の噂話は知っていても、騎士たちに殺されかかったところまでは知らなかったんだろう。パンを持っていたシュゼットの手が止まる。隣でクリスが笑い出した。
「お見合いに行ったら護衛に裏切られて、子供だけで逃げ回ったとかな」
「そんなこともあったわね」
ただその一件は非公開情報なので、あまり簡単に口にしないでいただきたい。
変な逸話が多すぎるせいで誰も深くつっこんでこないけど。
「子供のころから、騒動に首を突っ込んでばっかりいたせいで、何度も危ない目にあってるのよ。それで、万が一のことがあっても死なないよう、魔法の教師からサバイバル指導も受けてるの」
公にはなってないけど、東の賢者は金貨の魔女として裏世界で活躍していた過去がある。こと身を隠して逃げ回るスキルにかけては、彼の右に出るものはいない。
「だから、何かあってひとりになったとしても、自分で煮炊きをしながら馬に乗ってひたすら逃げるくらいのことはできるの」
我ながら、生き残る技術だけ見れば、かなり高スペックなご令嬢だと思う。
ただ敵が王妃様だとか邪神だとかなので、いくらスキルを積んだところで、たいして安心できないんだけどね!
「……敵わないわけですわ」
「すごいでしょ、って自慢するものでもないか」
だけど、と食事する女子生徒を見ていて少し思い直す。
「女子寮生徒には、ある程度場数を踏ませておいたほうがよかったかも」
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