罠イベント

「フラン、お疲れ様!」


 門の物見やぐらから降りてきたフランに声をかける。彼は私たちの姿を認めて、にこりと笑いかけてきた。

 一緒に降りてきたケヴィンが、力なく肩を落とす。


「フランさん、助かりました……俺だけじゃ王子を止められなくて」

「気にするな。ああいう手合いの相手は、お前たちにはまだ早い」


 ずっと身構えていたクリスが、持っていた武器から手を離して大きく深呼吸する。


「門を開けずにすんでよかったな」

「一度開けたら、もうそこでアウトだったからね」


 この先に待ち受けていた悲劇を知っている私は胸をなでおろす。

 実は、この避難民イベントはゲームでも発生する。

 大地震自体は、邪神の封印破壊で必ず起きることだからだ。

 結果、火事で混乱した王都から無事に見える王立学園へと、市民の一部が押しかけてくる。

 しかし、これはユラの仕掛けた罠だ。

 避難民の中には一般市民に見せかけた賊が何人もまぎれこんでいる。

 門をあけ、避難民を受け入れたが最後、彼らが学園中で暴れ回る仕掛けだ。敵の襲撃なんか予想していなかった騎士科学生は抵抗する間もなく殺され、女子寮は彼らに蹂躙しつくされる。もちろん聖女だって襲われてバッドエンドだ。

 悲劇を回避するための絶対の条件、それは門の死守だ。

 人でなしと言われようが、なんだろうが、彼らを中に入れてはいけない。

 もちろん、そんなことをしたらイベントに関わった攻略対象との関係はぎくしゃくしてしまうけど、大虐殺が起きるよりはマシである。

 好感度は上げ直せるけど、命は取り返せないからね!

 とはいえ、今日のこの日まで私自身はこのイベントをそこまで危険だとは思ってなかったんだよね。

 去年の侯爵令嬢誘拐事件の時に、王妃派女子をはじめとした王立学園内のスパイは一掃していたから。今の学園は騎士科を中心に、規律正しくまとまっている。

 災害が起きれば大門を閉ざし、周りで何が起きようとも中の生徒たちを守る。そのルールが徹底されるはずだったから。

 門を開けるようなバカはいないとたかをくくっていたら、まさかの王子ご乱心である。

 王子の後先考えない優しさがつらい。

 私だって、「誰も見捨てない」を信条に動くところはあるけど、それは全員の命に責任を持った上での話だ。

 命を助けるために、別の命を犠牲にするような無計画なマネは絶対しない。

 ああ、王子になまじ行動力と地位があるのが面倒くさい。

 お願いだから避難所の奥でおとなしくしててほしい。

 こう考えると、置物国王ってバカにされてても、邪魔だけはしない現国王って実は偉大な存在だったのかもしれない。偽物だけど。


「しかし、よくあんな都合のいい場所に避難所があったよな」


 フランを交えた私たち高位貴族メンバーでぞろぞろと避難所に移動する。歩きながらヴァンが言うと、フランがにやっと笑った。


「偶然なわけがあるか、あれは俺が用意したものだ」



====================

書籍4巻発売中!書籍版もよろしくお願いします!

詳しくは近況ノートにて!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る