ツイてない国

「そこはもう、『この世界はそういう仕組みだから』と考えるしかないわね」


 運命の女神に世界を救う才能がないのは仕様だ。

 すでにそう成り立ってしまってる世界に今更異議を申し立ててもしょうがない。世界がそう『ある』なら、あるなりに行動するしかないのだ。


「聖女として産まれたセシリアにとっては災難以外なにものでもない……とは思ってるのよ。自分の心ひとつに世界の運命を託されちゃってるんだから」


 私が彼女と同じ立場だったとして、フランとのんきに恋愛できてたかどうか自信はない。


「宰相家、あんたとオヤジさんはどう考えてんだよ」

「セシリアが王子に惚れなかった時点で別プランに移行した。現国王夫妻を強制排除し、セシリアを王位につける方向でひそかに動いている」

「ま、妥当な判断だよな。王宮の混乱より、救世主と正統な血筋のほうがずっと大事だ」


 この国は聖女の血筋を中心に形作られている。

 正当な王族の保護の前には、貴族たちの反発なんて小さな問題だ。


「どっちにしろ、今のオリヴァーに王は荷が重すぎる」

「何もしないだけならまだいいが、あいつは王妃に情で訴えられたら、流されかねないからな」

「とはいえ、正統な王族であるセシリアにも、統治者の才能があるかというと……微妙なところね」


 女神に与えられた才能はともかく、本人はすみっこで平穏無事に暮らしたい小動物令嬢だ。女神のダンジョンでユラに立ち向かうだけの気概は見せるようになったけど、炎に巻かれた王都を見て倒れてしまうようでは、まだまだ弱い。


「気質はしゃあねえ。最低限、担がれる神輿の役さえやってくれりゃあ、俺たちがなんとか……って、それじゃ今の置物国王と同じになるか」

「国政は回せるだろうが、厄災に立ち向かうとなったら、難しいだろうな」


 フランも冷静に肯定する。

 厳しいけど、その判断は正しいように見える。



「偽物王に、気弱な王女に……つくづく統治者に恵まれてねえ国だな、クソ」


 ヴァンは悔しそうに爪を噛む。

 ただの臣下であれば、運が悪かったですむかもしれないけど、本来の彼は王の弟。セシリア以外に唯一残された直系の王族だ。彼らの叔父として抱える想いがあるんだろう。


「お前が戻るのはナシだ」

「わかってるよ。王妹が実は男で、婚約者と入れ替わってました、なんて話は王様が取り換えられてたって話以上に受け入れられねえ。俺は、シルヴァン・クレイモアだ」


 ヴァンはがりがりと頭をかいて立ち上がった。


「ヴァン?」

「ちょっと外で頭冷やしてくる。フィーアが戻ってくるまでは、待機で大丈夫だろ」

「ああ、それで構わない」

「だったら私も」


 ヴァンに続こうとしたら、苦笑して止められた。


「お前はここにいろよ。どうせ外に出たら、そいつとは一緒にいられねえんだから」

「そ……それは、言われてみれば」


 ここは管制施設が作り上げた仮想空間だ。中で誰が何をしてるかなんて、外からは絶対にわからない。スキャンダルを避けなくちゃいけない私たちにとって、絶好の逢引き場所だ。


「じゃ、またあとでな」


 だからって、いきなりふたりきりで残さないでいただけますか?!



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