不死なるもの
「リリィ、結界!」
「はいっ!」
ヴァンの指示で、私は用意していた魔法を発動させた。集まっていた私たちごと、ヴァンパイアを取り囲むようにして光の柱が出現する。
ヴァンパイアをおびき寄せても、そのままじゃ光を当てたと同時にまた逃げられちゃうからね! 捕まえておく仕掛けもちゃんと用意してあるよ!
「アァァァァッ!」
ヴァンパイアがいらいらと腕を振り回した。私たちは武器を構えながら、慎重に距離をとる。敵の攻撃を直接受けるのはクリスと、フランだ。
「そいつは、回復力が異様に高いの! とにかく攻撃して、回復のスキを与えないで!」
「だとよ。ケヴィンは俺と一緒に前衛の連携。セシリアは片っ端から魔法を詠唱。リリィは……」
「回復と支援でしょ!」
私は、彼らに守りの魔法をかける。
ダンジョン内の回復魔法は、すぐに傷を消してくれるけど、痛みは痛みだ。怪我をしないに越したことはない。まあ、ボス相手に無傷で勝利するのは難しいんだけど。
「はあっ!」
クリスがヴァンパイアに切り込む。肩口から大きく切り裂かれて、ヴァンパイアが後退した。すぐに傷口がふさがっていくけど、体力ゲージは減っている。彼らの攻撃は着々とヴァンパイアの体力を削っていた。
「気を付けて、もうすぐ体力が半分になるわ!」
「どうせ、攻撃パターンが変わるんだろ」
「正解! 触手が出てくるわよ!」
そう言った瞬間、ヴァンパイアの背中がぼこりと盛り上がった。そこから、植物のつるのような細長い何かが何本も飛び出してくる。
「うわ……」
クリスが嫌そうに顔をしかめた。細長いものがにゅるにゅるとのたうつ様子が気持ち悪かったらしい。私も気持ち悪い。
「触手に気を付けて! 捕まったらそこから血を吸われるわ!」
「吸血鬼って、噛みついて血を吸うものじゃなかったっけ?」
触手をはじき飛ばしながら、ケヴィンが困惑顔になる。
「それだと、一度に一体からしか吸えないからねえ。効率化ってやつ?」
戦闘不参加の囮邪神がのんびりと語る。そんな効率化、いらない。
「要は、こいつをかわしながら、本体にダメージを与えればいいんだろう!」
触手を振り払って、フランが踏み込んだ。突き出された槍の穂先がヴァンパイアを貫く。こういう時、リーチの長い槍は便利だ。
全員が効率よく機能しているパーティーは、時に絶大な火力を発揮する。回復能力が高いはずのヴァンパイアの体力ゲージはみるみる減っていった。
「あと二十パーセント……触手の数が増えるわよ!」
ぶわ、とヴァンパイアの背中が翻ったかと思うと、触手が倍増した。触手自体の動きには慣れ始めてきたものの、この数は多すぎる。
フランたち前衛組の手からこぼれた触手が私に向かってきた。しかし、ぶつかる直前に魔法の詠唱をしながら、セシリアがマチェットで斬り飛ばす。さすが聖女、本気で戦わせたら強い。
「あと一息……!」
ヴァンパイアにとどめを刺そうと、全員が本体に集中しようとした時だった。
「あれっ?」
のんきな声とともに、人影がひとつ宙を舞っていった。
触手にからみつかれたユラだ。
「えええええ?!」
そういえば、ユラもヴァンパイアの攻撃対象だった。低レベルで抵抗もできない格好の獲物でもある。
しかし、どうせ何をやったところで、ツノつきの悪魔は死なない。今までさんざん迷惑をかけられた恨みもあってか、誰も彼をかばわずその姿を見送ってしまう。
しかし、触手に手繰りよせられ、吸血鬼に直接とりつかれたユラは、不敵に笑った。
「え……?」
なんだ、今の笑いは。
間違いない、何かろくでもないことを考えてる顔だ。
何が起きた? 私は何を見落とした?
疑問への解答はすぐに示された。
「リリィ! ヴァンパイアの体力が!」
ボスの体力ゲージが変化していた。二十パーセント程度だった体力がみるみるうちに五十パーセント以上にまで回復していく。
「ユラの血を吸って回復してるんだ! あいつを触手からひきはがして!」
「ちっ!」
フランが槍を突き出し、クリスが触手を切り裂いた。しかし、がっちりとユラにとりついたヴァンパイアは離れない。
「まずい……!」
本来、吸血によるHPドレインは有限だ。捕まった人間が脱出するか、最悪死んでしまえば体力の吸い取りはそこで止まる。
だけどユラは自力で触手から脱出できない低パラメーターで、さらに不死の自己回復能力持ちだ。ユラを取り込んだヴァンパイアは、無限に回復できてしまう。
「おいこれ、どうやったら倒せるんだ……?」
私たちは茫然と彼らを見つめた。
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