パーフェクトパーティー?
「来たぞ!」
ヴァンの声で、全員が身構えた。
白い石畳の通路を、がしゃ、がしゃ、と音をたてながら鎧を着た兵士が歩いてくる。彼らは一通り兵士らしい装備を身に着けているけど、鎧も剣も、その下に身に着けた衣類もすべてぼろぼろで、あちこち汚れて錆びていた。ぼろぼろなのは装備だけじゃない。本人もだ。シワシワの皮膚は緑色に変色し、口からはどろりとした赤黒い何かが垂れている。その上目はうつろで、虹彩は完全に白く濁っていた。
どう見てもゾンビ兵です。ありがとうございます。
彼らの後ろからは、ゆらゆらと煙のようにゆらめく死霊の姿もある。
第五層地下神殿ステージのご当地モンスター、リビングデッドご一行様である。
人間っぽいどころか、ベースが人間そのものなので、心の底から気持ち悪い。
しかし、彼らを見てもさほど恐怖は感じなかった。
なにしろ戦力が大幅にアップしてるからね!
「フランとクリスがゾンビ兵に対応! 俺とケヴィンが死霊を牽制する。リリィは支援魔法、セシリアは広範囲浄化魔法だ!」
ヴァンの指示に従って、メンバーがそれぞれのポジションへと走っていく。彼らの後を追うようにして、白い光が飛んでいった。
私が放った『呪い防御』の魔法だ。
呪いを解く魔法も持ってるけど、そもそも呪われないに越したことはないからね。
「はあっ!」
クリスがクレイモアをふるう。物理的な体を持っているゾンビは、やすやすと吹っ飛ばされていった。しかし、動く死体は手足が壊れているにも関わらず、ゆっくりとまた起き上がってくる。
クリスとフランがゾンビたちの相手をしている間に、死霊が横合いから彼らに襲いかかった。ヴァンとケヴィンが間に割って入る。
死霊の手がケヴィンに触れようとした瞬間、ばちんと白い光が弾けて死霊の手を消し飛ばした。私の『呪い防御』の魔法効果だ。よしよし、うまく機能してるな。
「どいて!」
さらにケヴィンがモーニングスターを叩きこむと、質量がないはずの死霊の体が削れた。これも、私が事前に武器へと付与した聖なる力の加護だ。実体のない死霊を完全に倒すことはできないけど、体力を削るくらいはできる。
「みなさん、さがってください!」
セシリアが叫んだ。
祈るように胸の前で組んだ手には、強い光が集まっている。
リビングデッドの呪いの力を打ち消す、浄化の魔法だ。
「来い!」
フランたちが道をあけると、吸い込まれるように浄化の光が放たれ……全ての敵を焼き尽くした。あとにはドロップアイテムだけが転がっている。
「おーすごいすごい」
ぱちぱちぱち、と後方で待機していたユラがのんきに拍手した。私たちは無言で彼の祝福を無視する。
「……聞きたいんだが」
いや、クリスが不機嫌そうに口を開いた。
「もうコイツは無能なんだよな?」
「第五階層の平均レベルは六十だしね。攻撃魔法どころか麻痺も毒も拘束も挑発も、通らないんじゃないかな」
事実ユラはこの戦闘で何も行動していない。
効果がなくて無駄だからだ。
「だったら、いっそのこと敵の前に放り込んで戦闘不能にしたらどうだ? 追放できないならせめて、物言わぬ死体にしたほうが面倒がない」
「お姫様はエグいことを考えるね」
しかしその容赦ない提案は、ユラの言動にストレスをためている聖女の心を掴んだらしい。セシリアがうっすらと笑った。
「どうせここは夢の世界ですからね。ユラがモンスターに殺されたところで、本当に死ぬわけじゃありません。静かになるなら、それもいいんじゃないですか」
「えー、君に愛を囁けなくなるのは、悲しいよ」
ユラがわざとらしく口をとがらせる。
その態度が余計セシリアの神経を逆なでしてるってこと、わかっててやってるんだろうなあ。
その余裕の笑みが癪に触って私は口をはさんだ。
「どうせ、蘇生されなくても平気なスキルがあるんでしょ」
少し前から違和感はあった。
スキュラ戦でHPとMPがゼロになった後、いつの間にか復活していたからだ。誰もユラに蘇生魔法を使った覚えはなかったのに、だ。
ユラは苦笑しながら肩をすくめる。
「ダンジョンの仕様のせいかな? 死ぬようなダメージを受けてもHP1ポイントで復活するんだよ。生きてさえいれば、そのうち自己再生スキルで完全復活する」
彼自身も首をかしげているあたり、現実世界では起きない現象なのだろう。どっちにしろ迷惑なんだが。
「死体っていうモノになった体を運ぶのは平気でも、瀕死でうめいたり血を吐いたりしている僕を連れ歩けるほど、感情捨ててないでしょ。やめておいたら?」
「結局、この迷惑な男を連れて歩くしかないんですね……」
セシリアが肩を落とした。
「まあ、悪いことばっかりでもないよ」
私はセシリアの背中をぽんと叩く。
「小夜子がいない今、このパーティーの最弱キャラはユラなわけでしょ? 敵にとっては絶好の獲物な上、殺しても死なない。わあ、最高の囮だね!」
「……察しのいい侯爵令嬢は嫌いだ」
私もユラが大嫌いだよ!
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