物理パーティーはつらいよ
「一応、兵装をレベルアップさせていけば、魔力を使った攻撃もできるんだけどねー」
私はメニュー画面を操作して、クリスの持つクレイモアの兵装スキルツリーを表示した。分岐のひとつをたどっていくと、魔法兵器の項目がある。
「でも、まだ全然レベルが足りてない。それに頑張って機能解放したところで、魔力量の少ないクリスがこれを使っても、火力の足しにならないよ」
ポイントの振り直しはできるけど、総量には限りがある。
クリスみたいなタイプは使いどころのないゴミスキルにポイントを使うより、得意を伸ばして物理特化戦士にしたほうがよさそうだ。
「それは賛成……だけど、どうして王女がクレイモアの兵装を使ってるんだろーね? 不思議だな~」
他のメンバーと一緒になって、クリスのスキルツリーを眺めていたユラが要らない一言を放った。
「本来は次期クレイモア伯が使うべきスキルだよね? だけど彼が使っているのは王家のソーディアンのスキルだ。うわあ不思議!」
「うっさい。わかってるくせにわざとらしく不思議がるな」
私はユラの言葉を冷たく切り捨てる。彼はくつくつと楽しそうに笑った。
「まあねえ。性別を偽るなんて面白いネタ、いつ使ってやろうかって手ぐすね引いて待ってたのに、いきなり婚約発表した上に身分を交換しちゃったんだもん。あれは久しぶりにびっくりしたな」
ユラが笑う横で、ヴァンとクリスの顔から血の気が引く。彼らの秘密はとっくの昔に敵に知られていて、ただ見逃されてただけだったのだ。カトラスで身分を交換する決断をしていなかったら、今頃どこでどう利用されていたか。
「今更、俺たちの性別のことを引っ張り出しても無駄だぞ。もう肩書と性別が一致してるんだからな」
「わかってるよ。関係者全員が事実を知った上で口裏をあわせてるんだもの。性別ネタはもう使いようがない」
使えなくなった情報に未練はないのか、ユラはけらけらと笑っている。しかしその途中でふと不思議そうな顔になった。
「……でもひとつだけわからないんだよね。ふたりの婚約発表パーティーは僕も見てたんだけど、ふたりとも交換前なのに性別が変わってたよね? あれってどうやったの?」
首をかしげる様子に嘘はないように見える。どうも本気で何が起きたかわかってないようだった。
東の賢者ディッツは、元の運命ではゲームが始まるずっと前に殺されていたはずの人間だ。その上、彼は身分を隠すために『金貨の魔女』に変身して薬を売っていた。性別を変える薬も、元は彼自身が変装するために作ったもので、売り物ではなかったらしいし。恐らく彼に関してはユラの情報網をすり抜けてしまっているのだろう。
でも、そんなことユラに教えてあげる義理はない。
「悪いけど、手品の種は明かさない主義だから。せいぜい不思議がってれば?」
「つれないなあ。せっかくの計画を全部ぶちこわしにされたかわいそうな僕にヒントくらいくれてもいいじゃない」
「やらないよ! っていうかもともと勇士七家を陥れる計画を立てるな! 実行すんな!」
怒鳴ってみても、世界に仇なすことが運命づけられている邪神の化身はどこ吹く風だ。
「はあ~……クレイモアの継承は邪魔できなくなっちゃうし、王室の火種は減っちゃったし、いいとこなしだよ」
「うん? ってことは、お前はもう俺の継承に手出しできねえってことか?」
ユラのうさんくさいセリフを聞いていたヴァンが顔をあげた。
「王女が君の側にいる限りは、何をしても無駄だからね」
「……ここに入る前のリリィもそんなことを言ってたな。クリスがいれば大丈夫とかなんとか……あれってどういう理屈だ?」
「あーそういえば」
慌てたから、細かい説明してなかったな。
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