アンバランスパーティー
「なるほど……これは難題だね」
蜂の巣から手に入れた宝石を使って、ボス部屋の扉を開けたケヴィンは小さくため息をついた。他の仲間も同じような表情で頷く。
おなじみ、次の階層へと続く扉前の広場に鎮座する巨大なボスモンスター。
マンティコアと名付けられたソレは、一見ただのライオンのように見えた。しかしサイズは普通のライオンの数倍はあるし、そのしっぽにはサソリっぽい鉤爪がついている。その上鬣に覆われた頭は微妙に人間の顔っぽい。正直キモい。
人を襲う化け物なんだから、人間の嫌悪感を煽るデザインなのは当然かもしれないけど。
私はいつものように攻略本を開いて、ボスキャラの特性を解説する。
「マンティコアは一応、ライオンの魔物だね。巨体だけどフットワークが軽くてすばしっこい。たてがみには物理攻撃半減の効果があって、普通の武器じゃ歯が立たない。攻撃のメインはあの前脚だね。とにかくパワーがあるからまともに殴られたらやばい。サソリっぽいしっぽは見たまんま毒攻撃してくるから要注意。あと、一番気を付けなくちゃいけないのが、あいつの口」
「ヒトの顔に似ているぶん、普通のライオンより小さくて攻撃力が低そうだが?」
クリスは見た通りの疑問を口にする。
「牙がない代わりに、別の武器を持ってるんだよ。人間と同じ口と舌を持ってるおかげで、魔法の呪文を唱えることができるんだ」
「前脚としっぽだけでもヤバそうなのに、物理攻撃半減の上に魔法まで使ってくるのかよ……」
ヴァンがガリガリと頭をかく。
「なんでダンジョンのモンスターは毒だの石化だの、面倒くさい特性ばっかり持ってるんだ」
「単純な力勝負じゃすぐ負けちゃうからねえ。絡め手は戦略の基本だよ」
「そういやモンスターのモデルはお前の配下だったな! 納得の面倒くささだよ!」
ほんそれ。
「このメンバーだと、ちょっと相性が悪いね」
ケヴィンがへにゃ、と眉を下げる。
そう、これがパーティーの抱える『バランスの悪さ』だ。
「三人とも物理戦闘は強いんだけど、その反面魔法戦闘はあまり得意じゃないから」
彼らと一緒に学校生活を送ったから、全員の魔法学の成績は知っている。クリスは元々魔力の多いほうじゃないし、ケヴィンも同じくらい。一番魔力があるのは王家の血をひくヴァンだけど、戦闘中に術を行使できるってほどじゃない。
「この中で一番戦闘用の魔法が使えるっていうと、セシリアか?」
ヴァンが視線を向けると、セシリアはこくこくと頷いた。彼女は魔法学の授業でもその才能を発揮していた。うまくやれば大技を使うこともできるだろう。でも彼女は浮かない顔だ。
「私が戦闘に集中してしまうと、今度は回復ができなくなりますので……」
「そこなんだよなー」
セシリアは現在、メンバーの能力強化と状態異常防御、さらに怪我の回復と後方支援を一手に引き受けている。物理戦闘だけなら、前衛三人に支援がひとりでうまくバランスが取れてたんだけど、これに魔法戦闘が入ってくると手が足りなくなってくる。
特に今回の敵は毒だの魔法だの絡め手を多く使う。回復手段を用意しないと危険だ。
「ユラは回復魔法が使えないんだったな?」
尋ねられて、私は頷く。
ユラ本人ではなく、私に聞いてくるあたり、ヴァンもわかっていらっしゃる。
「スキルリストを確認した感じだと、仲間をノーリスクで支援するスキルは一切持ってないね。体力を回復させるスキルも一応あるけど、そのついでにアンデッドになったり、理性を失って暴走したりするから」
さすが邪神。ろくなスキルがない。
「僕が攻撃に回ってもいいけど? この程度なら一撃死させられるよ」
「……それだと、俺たちに恩恵がないだろ。ボス討伐ボーナスはメンバー全員で分けたほうがいいんだよな?」
「うん。経験値ボーナスがつくし、討伐称号があったほうがスキル効果が高くなるから」
「だとしたら、できるだけユラ以外のメンバーで戦いたいな。白銀の鎧の兵装スキルを使えば、強力な一撃は出せるけど……使ってみた感じあまり魔法の力って感じがしないんだよね」
ケヴィンの感想は正しい。
彼ら自身が物理戦闘に特化している影響で、使える兵装スキルも物理特化なんだよね。兵装で一撃が強化されていても、物理攻撃であることに変わりない。
私たちは考え込んでしまった。
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