負け邪神

「あれ? 君たち本気で知らないの?」


 ユラは聖女と勇士を殺せない。そう聞いて、びっくりした私たちを見てユラもまたびっくりした顔になった。


「今まで私たちがどれだけあなたを警戒していたと思うんです。あなたこそ、こんなことバラしてよかったんですか?」

「ん……まあ、特別隠してた話でもないから、言っていいんじゃないかな。厄災の神本体はともかく、端末である僕には君を直接手にかける権限はないんだ」

「権限の問題なの?」


 ちょっと何言ってるかわからない。


「僕は彼女を殺すことを世界に許されてない……明確に権限の問題でしょ」


 ユラは肩をすくめる。

 いやいやいや、世界が許してないって、ますます意味がわからない。


「だいたい変だと思わなかったの? 厄災本体はまだ封印されてるとはいえ、僕はこの世界の誰よりも強いんだよ。王宮に出向いて王族と高位貴族を根こそぎ殺せばハーティア国なんて簡単に潰せる」

「でも、そうならないのは、権利を制限されているから……ですか?」

「そういうこと」


 いつの間に接近したのか、ユラはするりとセシリアの首に手をそえた。


「迷宮の外で君の細い首に手をかけて、本気で締めようとしたとする」


 ぐ、とユラの指が曲がる。


「僕らの実力差じゃ、呪いを発動させる前に君の首が折れておしまいになるはずだよね」

「やっ……!」


 セシリアがとっさに後ずさる。首から手を離されたユラは苦笑した。


「大丈夫だよ、そんなことは起きない。隕石が落ちてくるか、地震でも起きるか、何かしらの数奇なる運命ストレンジフェイトが発生して邪魔される。世界はそう『設定』されてるんだ」

「待って、それはおかしくない? あんたに殺された人間が何人いると思ってんの。獣人一族に、ケヴィンの婚約者たちに、シルヴァンの両親に……ダリオだってあんたに殺されそうになってた!」

「勇士の血を引かない一般人は対象外だよ。ダリオも本当に殺そうとしたわけじゃない。彼は死なない程度にボロボロにしてから、父親に殺させるつもりだったんだ。血族同士の争いなら強制力は働かないから」

「いやにあっさり教えたと思ったら、直接の殺人以外は全部ノーカンなわけか。だとしたら、シルヴァンの両親殺害も……」

「直接手を下さずに、暗殺者を差し向けた。そういうことですね?」


 アギト国の侵略作戦がいやに遠回しな理由がわかった。直接手が下せないから、周りの者に殺させていたのだ。

 セシリアに睨まれて、ユラはくつくつと笑う。


「こう見えて、運命の制限は結構強力でね。運命係数の高い人間を害そうとすると、必ず反作用が起きるんだ。血族全体を罠にかけて根絶やしにしようとしても、シルヴァンみたいに孫ひとりだけ生き残ったりするし。結局五百年以上かけて断絶に成功したのって、ダガー家くらいだったな」

「それもやっぱりあなたの仕業でしたか……」

「睨まないでよ。僕は所詮あくせく働いて人心を腐らせるしかできない、無力な存在なんだからさ」

「いやそれ充分迷惑だから」


 その影響でどれだけの人間が不幸になったと思うんだ。

 多分これらの工作活動が全部成功した結果が、『何やっても世界が滅亡するクソゲー』世界だったんだろう。そう考えると、彼の計画は半ば以上達成していたと言える。

 そんな事実、ヤバくて明かせないけど。


「本当にタチ悪いな……」

「そういう文句は創造神に言ってよ」

「なんでそこで創造神が出てくるわけ?」

「だって僕をそう作ったのは、創造神だから」



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次の更新は1/28です!


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