経験値分配ロジック
「小夜子さん、どうされました?」
「ん~ちょっとセシリアのパラメーターがね」
私はステータス画面を表示して、セシリアに見せる。
「ここに来るまでに何度かバトルしたけど、あんまりレベルが上がってないんだよ」
表示されたセシリアのレベルは六。ザコ敵相手とはいえレベルの上昇率が低すぎる。
「僕のレベルは……って、こっちは参考にならないか」
「すでにレベル九百九十九でカンストしてるからね。ユラはこれ以上経験値が入りようがない」
脱出のためには、セシリア自身にも強くなってもらわなくちゃいけない。だから、経験値取得効率は大事な問題だ。
「え~と何が問題だったかな……」
おなじみの攻略本片手に私は首をひねる。私は女神のゲームを『乙女ゲーム』として遊んでいた。レベル上げ用のサブイベントダンジョンの仕様にまで気を回してない。
だからってわかりません、で放置するわけにもいかないし。
「確か……ここのバトルシステムは、貢献度制で経験値を配分してたような」
「コウケンド?」
セシリアも首をかしげる。同じように首をかしげるポーズでも、美少女のセシリアがやるとめちゃくちゃかわいい。
「ダンジョンでは、敵とのバトルに勝利すると、パーティーメンバーに経験値が与えられるの。これが増えるとレベルが上がって、スキルやパラメーターボーナスが得られる。ふたりともここまではわかってるよね?」
「はい!」
こくこく、とセシリアが首を縦に振る。
「この経験値の振り分け方にもいろいろあって……一番単純なのが頭割り」
「参加したメンバー全員で均等に分ける考え方ですね」
「そうそう。ネズミとかコウモリとかを倒すたびに、三で割って全員に配るんだ。でも、それにしてはセシリアも私も全然レベルが上がってないよね?」
「別のロジックがあるわけだ」
ユラの指摘に私は頷く。
頭割り配分だと、レベルの高いお助けキャラに引率してもらって、低レベルキャラが楽々レベルアップ! ってこともあるんだけど、女神のダンジョンではそうはいかないらしい。
「多分、ここのシステムではバトルでどれだけ活躍したか評価して、貢献度にあわせた配分をしてるんだと思う」
「貢献が少ない、つまり戦闘中何もしてない……?」
「そういえば、出て来た敵は全部僕が即殺してたね。ああはは、それじゃあ活躍のしようがないか」
「またユラのせいですか……」
セシリアが嫌そうな顔になる。
「愛しい人を危険から遠ざけてただけなのに、睨まれるって理不尽すぎない?」
「どうだか」
こいつのことだ、戦闘を見ているだけじゃレベルが上がらないって、薄々わかっててわざと即死魔法連発するくらいのことはやってておかしくない。
「では、次からは私も敵の討伐に積極的に参加しますね」
「がんばろう、愛しい人。女神は君に獣の肉を割きその命にとどめを刺すことをお望みのようだけど、野蛮に戦う君もきっと素敵だよ」
「言い方ぁ!」
戦闘に参加するってことは、確かにそうなんだけど!
言い方ぁ!!!
「あ……あの、セシリア大丈夫……? 直接戦闘が嫌だったら、魔法を使うとかアイテムを使うとか、他にもレベル上げの方法はあるからね?」
そもそも、ヤバいとわかっててもユラを殺せなかった優しい子だ。敵キャラとはいえ、その手で殺して回るのはストレスになるだろう。
しかし、彼女は大きく息を吐くと武器を手に顔をあげた。
「大丈夫です。私がひるんでばかりいては、小夜子さんを守れません」
それに、とセシリアは付け加える。
「相手が獣の姿をしている分には平気です。もともと実家では下働き同然の生活をしていて、鳥をシメたり肉の下処理をしたりするのは私の仕事でしたから」
「おおう……」
お嬢様暮らしをしていたからすっかり忘れてたけど、ここは精肉工場もないファンタジー世界だった。シンデレラな貧乏生活をしていた彼女にとって、害獣駆除も獣肉処理も慣れた仕事のひとつだったらしい。
聖女つょい。
私たちはセシリアを先頭に再びダンジョン探索を開始した。
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