槍VS槍
「す……すごいですわね」
訓練場の有様を見て、シュゼットが茫然とつぶやいた。
そこではフランが騎士科を一方的に蹂躙していた。
生徒たちはなんとかして一撃いれようと次から次へと斬り掛かっていくけど、全てかわされ全員猫の子のようにいなされる。
「うわっ!」
「踏み込みが遅い。ダッシュ10本」
「はあああっ! ……あでっ!」
「無駄が多い。素振り100回」
しかもフランからの反撃には、厳しい一言指導のオマケがついてくる。
「次」
「や、やああっ……!」
攻撃を促され、オリヴァー王子がフランに向かっていった。フランは眉一つ動かさず、剣を握る王子の手を槍の腹で叩いた。
「ぐっ」
思わず剣を落とす王子とすれ違いざまに、足をひっかけて転がす。王子は顔面から訓練場の地面につっこんだ。
「殺す気でこい。今のお前は助言する気にもならん」
「あ……ありがとうございました」
すぐには起き上がれず、よろよろと訓練場の端へと移動する王子からフランが離れていく。そこへ、左右から同時に生徒が襲い掛かった。
全く同じ色の銀髪コンビ、ヴァンとケヴィンだ。ひとりでは太刀打ちできないと踏んで、即席協力攻撃を編み出したらしい。
しかしフランはそれを見た瞬間、即座にヴァンへと体ごと向かっていった。
「うおっ?!」
体当たりをくらわされてヴァンが吹っ飛ぶ。相棒がいきなり倒され、ケヴィンの思考が途切れた。その一瞬の隙を見逃すフランではない。振り向きざまに槍をケヴィンに叩きこんだ。
「わあっ!」
彼らもまた、訓練場の地面に転がされる。フランはふたりまとめて冷ややかに見下ろした。
「コンビネーションは悪くない。だが、まだ実力が釣り合ってないな。ヴァンは走り込み30本、体力をつけろ。イメージ通りの動きができるようになれば、化けるだろう。逆にケヴィンはイメージトレーニングだな。相棒が心配なのはわかるが、戦場で思考を止めればそこで死ぬぞ」
「わかった……やってくる……」
「ありがとうございました……」
ぜい、とふたりは息をついているけど、フランは涼しい顔をしている。まだまだ体力が余ってるみたいだ。
「お願いします」
ヘルムートが槍を構えてフランに声をかけた。それを見て、フランはだらりと手を降ろした。一応まだ槍を手に持っているけど、構えを解いた状態だ。
「な……」
「来い。この程度のハンデはくれてやる」
「バカにして……!」
ヘルムートは、槍を振ってフランに突っ込んでいった。
しかし渾身の一撃はあっさりかわされる。
「挑発程度で思考を単純化させるな」
「なんだと……!」
二撃、三撃、とふたりは槍で打ち合う。今まで一撃で沈められてきた他の生徒に比べて、各段に高度な応酬だ。だけど、どちらが強いかは傍目にも明らかだった。
うまくさばいているように見えたヘルムートの槍がブレ、フランがその肩をしたたかに打ち据えた。
「左右のバランスが悪い」
次は脇腹に一撃。
「体幹が弱い。槍に振り回されるな」
さらに脛を叩かれて、ついにヘルムートはがくりとその場に膝を折った。
「足さばきが遅い。もっと速く!」
「ぐっ……!」
「全体的に基礎が荒い。まずは騎士科の授業をすべてこなせ。応用はそれからだ」
「わかり……ました……。ありがとうございます……」
足が痛くて立てないらしい。ヘルムートはその場に座り込んでしまった。
「治療が必要な場合は、一旦訓練場から出て……」
ヘルムートを立たせるため手を出そうとしたフランは、突然背後に向かって槍を振りぬいた。とっさの一撃を受けて、ユラが吹っ飛ばされる。ヘルムートに意識を向けたその隙に背後から襲い掛かったらしい。
「……っ!」
セシリアと私が同時に息をのむ。
フランの槍が間に合ったからいいものの、あと一瞬でも遅かったら木剣が頭を直撃していた。
「……隙をつく戦法は悪くないが、もう一歩踏み込んだほうがよかったな」
「ありがとうございま~す」
他の生徒同様に地面に転がされたというのに、ユラはけろりとしている。フランはため息ひとつつくと、他の生徒の指導へと向かっていった。
「強いとは聞いていたが、すさまじいな……」
観戦していたクリスがほう……と息を吐いた。
「踏んだ場数が違うもの。学生じゃ相手にならないわよ」
なにせ、学園卒業後に暗殺者から命を狙われたのを皮切りに、悪代官をこらしめたり、暴走した獣人と戦ったり、と何度もヤバめな実戦を経験しているのだから。その上最強騎士のお膝元ハルバード城で騎士たちを統率していた実績もある。学生どころか一般の現役騎士より格段に強い。
「ずいぶん、フランドール様のことにお詳しいんですね」
シュゼットがまた不思議そうに私を見てきた。
「私が領主代理をしていた三年間、補佐官を務めていたのは彼ですからね」
「え」
私の隣でクリスが『そんなことバラしていいの?』って顔をしたけど気にしない。フランがハルバードの補佐官をしていたのは公的に記録された事実だ。下手に隠したほうが、邪推される。だから私は素知らぬ顔で説明を加える。
「彼は私にとってもうひとりの兄のようなものです」
「そうなんですね……」
しゅん、となぜかシュゼットは下を向いた。
「せっかく、アテンドについていただいているのに……私は知らないことばかりです。フランドール様のことも、リリアーナ様のことも」
「そのことなんだけどさあ……」
今日何度目かのシュゼットのびっくり顔を見た私は、思い切って疑問をぶつけることにした。
「シュゼットは私を何だと思ってるわけ?」
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