姪と叔母

「ハーティアと交流するのなら、まずは近しい血族を頼るべきでは?」


 外交のために未来の王子妃と仲良くなりたい、というシュゼットに頭に浮かんだ疑問を投げてみた。

 シュゼットは王妃の姪だ。わざわざ私に近づかなくても、王室そのものにパイプがあるはず。しかしシュゼットはうーん、とかわいらしく眉を寄せる。


「実は、カーミラ叔母様のことはあまり存じ上げないのです」

「そうなんですか?」


 姪ってかなり近い血族だと思うんだけど。


「叔母様が嫁いだのは国境を隔てた異国ですから。一度もお里帰りされていないこともあり、お顔を合わせる機会がなかったのです」


 カーミラが嫁いだのは二十年以上前。当然、シュゼットは産まれていない。

 確かにこの状況では繋がりが遠くなるか。


「もちろん、兄であるお父様とはお手紙を交わしていたそうなのですが、それも時候の挨拶程度で、子供の私たちはお言葉を頂いたこともありません。ですから、叔母様は私にご興味がないと思っていたのです」

「その割には、アテンド役を手配してますよね?」


 てっきり、もっと深い間柄と思ってたんだけど。

 シュゼットはこくこくと頷いた。


「ええ。だから私、とてもびっくりしてしまって……! 留学の打診の時には一切お返事がなかったのに、出国直前になってユーライアを推薦したり、フランドール様をお遣わしになったり……この件について、リリアーナ様はどう思われますか?」

「え、ど、どうって?」

「オリヴァー王子様とのご婚約は叔母様の意向と伺っています。義理の母娘としてお付き合いのあるあなたなら、叔母様の意図をご存知なのではないですか?」

「いや付き合いないのは私も一緒だし」

「え」


 思わず出た言葉に、シュゼットの顔から上品な表情がすっぽ抜けた。


「14まで領地で育ったので、王室の方々にお目通りする機会がほとんどなかったのです。私が婚約者に選ばれたのは家柄と能力を買われたからですね」

「そ、そうなのぉ……?」


 ついでにお姫様らしい口調も崩れる。

 本気で私と王妃の仲がいいと思ってたらしい。

 情報の少ない国外からうちの王室を見てたら、そう思うのかもしれないけどさあ。とはいえ、何も知らないっぽいシュゼットに『王宮内は王妃と宰相がガチバトル中で、私の婚約もフランの派遣も、ユラの推薦も全部王妃の悪意だよ!』とは言えないしなあ。

 本気で外交するならいずれ知ることかもしれないけど、今暴露しても混乱するだろうし。

 本音と建前ムズカシイ。


「一旦、王妃様のことはおいておきましょうか。繋がりの浅い者同士であれこれ言ってもしょうがない気がします」

「そうですね……」


 まだショックが抜けないらしい。茫然とするシュゼットを連れて私は騎士科の訓練場へと向かった。


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すいません、別件仕事でリソース配分失敗してストックがなくなりました……

(月末締め切りであと5万字書かねばならぬ)

というわけで12月から連載再開します。申し訳ありません。


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