ユーライア・アシュフォルト

「こちらは、キラウェア留学団の最後のひとり、アシュフォルト伯爵家三男のユーライア・アシュフォルトです」

「カーミラ様の推薦により、学園で学ぶ栄誉を賜りました。同じ教室で学ぶ仲間として、どうぞ気軽にユラ、とお呼びください」


 シュゼット姫からユーライアと紹介された黒髪の青年は優雅にキラウェア式のお辞儀をした。目の前の異常事態が信じられなさすぎて、私もセシリアも二の句が継げない。


「どうされました、レディ。私の顔に何か?」


 私たちがじっと見ていることに気が付いたのだろう。ユーライアは私たち……主にセシリアに微笑みかけてきた。

 顔っていうか、何かっていうかさあ……!


「その……ハーティアでも、キラウェアでも、あまり見ないタイプの方でしたから、驚いてしまって」


 ユラはキラウェアの服は着ていても、人種的な特徴はアギトの民そのものだ。キラウェア国民に見えなくてびっくりした、ってことにしておこう。ついでに、出自についても尋ねられるし。


「ああ、この肌と髪の色ですか。私の母がアギト国の出身なのですよ。5人いる子供のうち、私だけが母の血を色濃く受け継いでしまって」


 私に不躾な言葉を投げかけられても、ユラはにこにこと笑っている。


「こんなナリですが、私は誓って、ハーティアに仇なしたりはしません」


 いやいやいや、お前ゴリッゴリの敵対勢力だろーが!

 つっこみたいのに、つっこめない。


「……まだ気になりますか?」


 一歩、ユラがセシリアに歩み寄った。

 セシリアは私の陰に隠れるようにして、一歩下がる。


「いいい、以前お会いした方に、少し似ていたから……思わず……びっくりしてしまって」

「へえ、私に似た方が」

「えええ、で、ですから、お気になさらずっ!」

「ちなみに、その方とはどちらでお知り合いになったのか、詳しく伺っても? この国でこの容貌は珍しいでしょう、私の親戚かもしません」

「詳しく、って……」


 セシリアは言葉を詰まらせる。

 そんなもの、言えるわけがない。

 私とセシリアがアギト国第六王子ユラを目撃したのは、三年前のカトラス闇オークションだ。ユラの本当の出自を指摘しようとしたら、どうしてそんなところにいたのか、説明する必要が出てくる。闇オークションの商品になってた、なんて醜聞が明るみに出たら、ユラを糾弾する前にセシリアの令嬢生命が終わる。

 にいっとユラは闇色の瞳を細めて笑った。

 こいつ絶対、セシリアを追い詰めて楽しんでるだろ!


「ユーライア、そこまで」


 にらみ合う私たちの間に、シュゼットの静かな声が割って入った。


「初対面の女性に、あれこれと詮索するものではないわ」

「これは失礼。あまりにかわいらしい方だったので、思わず」

「……あなたも私も、学生であると同時にキラウェアの名前を背負ってるの。国の名に泥を塗るような行動は控えてちょうだい」

「かしこまりました」


 上司の言葉に従い、ユラはすっと身を引いた。しかし、その顔は相変わらず不気味なにこにこ笑顔のままだ。

 この場は引き下がったけど、反省するつもりなんか一切ないだろ!


「全員そろったようですし、中に入りましょうか」


 王子がやっとセレモニー終了を呼び掛けた。シュゼットを先頭にして、キラウェア留学団ご一行が移動を始める。

 彼らが離れていったのを見送ってから、私とセシリアは大きくため息をついた。

 ええー……このメンバーで全寮制学園生活を送るの?

 ヤバい予感しかしないんだけど!


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