らしく、いきましょう
「もう、何を考えてるんだか……」
ディッツの研究室からの帰り道、私はぶつぶつと文句を言いながら歩いていた。思い出すのはフランの言動である。何をどう間違ったら、攻略対象全排除なんてヤバい思考に行きつくのだろうか。
「ご主人様、顔がニヤけてますよ」
「うっ」
隣を歩いていたフィーアが容赦なくツっこんできた。
ちなみに、ジェイドは研究室に置いてきた。ディッツと打ち合わせがあるだろうし、帰る場所も男子寮だから別行動だ。
「……そんなに緩んだ顔してる?」
「してます」
「うああああああ」
なんであんな執着心見せられて喜んでるかなあ、私!
こっち睨んでる顔とかどう見ても悪鬼だし、そもそも女性に化けてる最中だっていうのに、ドキドキするのが止められない。
自分にこんな性癖があったなんて、知りたくなかった。
フランだったら何でもいいとか、ベタぼれ過ぎだろ自分。
「いいんじゃないですか、それで。沈んでいるよりずっといい顔だと思いますよ」
うちのメイドは私を甘やかしすぎる。
好きな人に会えたからって、緩みっぱなしの顔で歩くとか、主としての威厳は……って、今更か。
「前向きになったことには変わりないものね」
私は意識して背筋を伸ばす。
人生がピンチだらけなのは、いつものことじゃないか。
うずくまっていても何にもならない。いつも通り、何ひとつ取りこぼさないよう足掻くだけだ。
「よーし、まずは寮の片付けからね!」
「私たちは特別室でしたっけ」
「そう! サロンつきで贅沢仕様だから、居心地いいと思うわよ」
南の名門ハルバード侯爵令嬢が入居するのは、専用サロンあり、専用浴室あり、専用調理室あり、と何もかもが別格の女子寮特別室だ。
しかも『王家か勇士7家の者以外お断り』という厳しすぎる入居制限のせいで、フロアにはほとんど誰も入ってこない。
「今年の同居人はクリスだけだから、フィーアも気楽に過ごせるだろうし」
「他の勇士七家の女子は通ってないんですか?」
「去年まではケヴィンのお姉さんたちが入ってたけど、入れ替わりで卒業になったみたいね。他の家は男の子ばかりだから、みんな男子寮に集まってるんじゃないかしら」
条件が折り合わなくて、誰も入居しなかった年もあるらしい。そう考えれば、男子寮に何人も入っている今年のほうが、珍しい事態なのかもしれない。
「荷物は運び終わってるだろうから、さっさと整理して……」
「そこをどいてくださらない?」
女子寮のドアをくぐり、二階に上がろうとしたところで鋭い声が降ってきた。
「へ?」
見上げるとひとつ上のフロア、二階から三階へ上がる階段の前に、女の子たちが何人も集まっている。
「何やってるのかしら」
「喧嘩のようですね」
ぴこぴこ、とネコミミを揺らしてフィーアが答えてくれた。
私たちも二階に上がって立ち位置を観察してみると、人垣の中心に騒ぎの元らしい女の子が3人、立っている。
3人とも知っている子だった。
ひとりは元ケヴィンの婚約者ツンデレお嬢様ライラ・リッキネン。残りふたりは元(?)悪役令嬢の腰巾着、アイリス・メイフィールド伯爵令嬢と、ゾフィー・オクタヴィア伯爵令嬢だった。
あんたたち、こんなところで何やってんの?
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