お前もか

「あああああ……疲れた……」


 ガーデンパーティーから戻ってきた私は、ドレスを脱いで化粧を落とすとベッドに倒れこんだ。疲れた。めっちゃ疲れた。体力もだけど、気疲れしすぎてMPがほぼゼロだ。


 コレットたちに『王子妃になって!』とせがまれた後、パーティーは大変なことになった。

 私が彼女たちと話しているのを見つけた、他のお嬢様たちが『コレットたちだけズルい!』と次々乱入してきたからだ。

 そして何を思ったのか、全員が『リリアーナ様は王子妃になるべき』と謎の主張を繰り返す。

 子供の言うことだから……とかわそうとしていたら、なぜかそれを見ていた大人まで、『王子妃にふさわしいのはリリアーナ嬢』などと言い出すし。


 いや無理だから。

 絶対無理だから!!!


 能力とか家柄とか関係ないから! 運命的なもので無理だから!

 王子は特別な存在だ。聖女以外の女の子じゃ、絶対に彼を救うことはできない。何をどうしたって、一緒に破滅していくだけだ。

 それがわかっていて『はい、よろこんでー!』なんて、言えるかああああああ!!!


 みんなどんだけ王妃様に苦労してるの!

 そういうのは、ぽっと出の年端もいかない子供に期待しないで、自分でどうにかしてください!!!!


 彼らの囲みを突破して家に戻るまで、言質を取られないよう立ち回るのがめちゃくちゃ大変だった。

 マリィお姉さまに合流して報告したら笑わられるし。

 この事態を予想してたのなら、あらかじめ教えておいてくださいよぉぉぉ!!!


「お嬢様、お風呂に入りますか?」


 心配そうな声がかけられた。

 顔をあげるとメイドさんたちが心配そうにこっちを見ていた。パーティーに随行したフィーアは休憩中だから、側にいるのは屋敷担当の彼女たちだけだ。


「ん……髪を洗いたいから、入ろうかな……」


 パーティー用の整髪剤って、セットが崩れない代わりに強力なんだよね。放置してたら、あとで頭がとんでもないことになってしまう。

 私の発言を聞いて、何人かが風呂場へと向かっていった。


「ずいぶんお疲れですね。やはり………縁談のことで?」

「まあ、そんなところかなあ」


 あいまいに答えながら体を起こす。

 いかんいかん。

 主人の縁談なんて本来干渉しないはずの使用人が、こんなことを言ってくるなんて。

 よっぽど心配をかけちゃってるみたいだ。


 そう思っていたら、彼女たちは何故か謎のアイコンタクトを始めた。

 ぼんやり見ているうちに、あちこちからメイドさんたちが続々と集まってくる。ここは寝室だから入ってこないけど、廊下には男性の使用人も来ているみたい。


 全員そろったところで、彼女たちは一斉に私に向かって跪いた。


「お嬢様、無礼は承知で進言いたします。ケヴィン様との縁談は、どうかお考え直しください」


 ブルータス、お前もか。





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