血のお茶会事件
「それはまた、ずいぶんな悲劇だな」
私の話を聞いていたフランが重々しいため息をついた。
「女の子たちが勝手に殺し合っただけだから、ケヴィンが罪に問われることはなかったわ。でも、前途ある少女たちが死ぬ原因を作った、ってことでモーニングスター家は大きく評判を落とすことになるの」
家の衰退は、領地の衰退につながる。
ゲーム内ではこの事件をきっかけに、北部全体の結束力が失われていった。
「ケヴィン自身もひどい人間不信になっちゃってねー、愛想はいいけど、実は誰にも心を開かない、面倒くさい男になるのよ」
ケヴィン攻略に必要とされたのも、やはり高度なカウンセリング能力だった。
深い心の傷を持つ彼と、本当の意味で仲良くなるのは難しい。何度も何度も交流を重ねて、エンディング直前でやっと『友達になれたかな?』と思えるくらいの距離感だ。最初の距離が近い割に、イベントのイチャイチャ度も低めだし。キャラによっては執着とか監禁とかヤバい展開になることも多い中、さわやか友人カップルエンドを迎える珍しいキャラである。
ゲームプレイ中は他キャラと落差が激しすぎない? と思っていたのだけど、そのへんのバランスを調整するディレクターが存在しないんだから、しょうがない。
恋人とどれだけイチャイチャしたいかなんて、人それぞれだもんね。
「しかし……妙だな」
フランがぽつりとつぶやいた。
「利害が対立していたからといって、14かそこらの少女が一斉に殺し合いなどするものか?」
「子供の殺人犯がいないわけじゃないけど……貴族の女の子のやることじゃないよね」
「ケヴィンの婚約者になるくらいだ、全員教育の行き届いた良家の子女だろう。殺人がどれほどリスクの高い行為か理解しているはずだ。何か、裏があるな?」
「正解!」
さすがフラン、勘が良くて助かる。
「彼女たちはそれぞれ、ライバルを殺さなくちゃいけないくらい追い詰められてたの」
「悪意ある大人が糸を引いていた、ということか。それは女神の予言書の情報か?」
「ええ。でも攻略本に書いてあったのはそこまで。黒幕がいたことはわかっても、具体的に誰が何をやっていたのかはわからないの」
攻略本が聖女の視点でしか描かれないことの弊害だ。
彼女が関わった時点で、『血のお茶会事件』は終結していた。黒幕の情報など彼女の立場からでは観測しようがない。
「わかった。その先の調査はまかせろ」
「お願い! 実はちょっとアテにしてたの」
フランの実務能力と、ミセリコルデの人脈があれば、なんとかなるだろう。諜報員ツヴァイだっているし。
「婚約者たちが殺し合いを始めるのは、いつごろだ?」
「んー、王立学園進学の直前だったから、半年以上先のはずだけど……正確な時期はわからないわね。私がいろいろ動いたせいで、運命が変わった部分も多いし」
父様をダイエットさせたら、フランが死にかける世界だ。今ここで私たちが会話した結果、明日婚約者たちが殺し合っていてもおかしくない。
「だとすれば、調査している間、彼女たちの殺し合いを止めておく必要があるな」
「それならひとついいアイデアがあるわ!」
「……なんだ?」
「私が、第四の婚約者に立候補すればいいのよ!」
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