報告会
「……って感じで、ケヴィン・モーニングスターと知り合いになったの」
王妃様の素敵な罠パーティーに出席した翌日、私はミセリコルデ宰相邸を訪れていた。突然のピンチでパニックになっていた私を助けてくれたフランに、正式にお礼をするためだ。
メイドさんの案内で手入れの行き届いた庭園を進むと、一人用オープンカフェっぽいスペースがあり、そこでフランが出迎えてくれた。
同じ庭園のティースペースだけど、王宮のバラ園よりもずっと落ち着いていて、居心地がいい。さすがミセリコルデ家、趣味がいい。
フラン自身も、ハルバード城にいた時よりも若干リラックスした恰好をしている。
ここにいる彼は、ハルバードの補佐官ではなく、ミセリコルデのご令息だからだろう。
「そうか、うまくしのいだようだな。子供たちだけで集まると聞いていたから心配していたんだが」
「王妃様に比べたら、世間知らずな女の子の集団なんてかわいいものよ」
こっちは大人相手に3年も領主代理をしていたのだ。
同世代の女の子のしょうもない攻撃で傷つくほどやわじゃない。
でもその経験と自信を思い出すことができたのは、フランのおかげだ。彼がいなかったら、私はただの小娘として血祭にあげられていただろう。
「今回は助かったわ。本当にありがとう」
私が頭をさげると、フランの大きな手がその頭をくしゃくしゃとなでた。
「気にするな、と言っただろう。俺は俺として、当然のことをしたまでだ」
「むう……そんな風に甘やかさないでよ。フランがいないと何もできなくなったらどうするの」
「ふっ……それはそれで見てみたい気がするが」
何故そこで鼻で笑われるのか。
解せぬ。
「それで、ケヴィンと話したあとはどうなったんだ?」
「彼が王子様に呼ばれちゃったから、そこで終了。王子たちはともかく、ケヴィンとは早めにお近づきになりたかったんだけどね」
「未来の悲劇か?」
「そう。このまま王立学園入学まで彼を放っておくと、前途ある貴族の女の子が3人も死んじゃうの」
そして、彼自身も大きく傷つくことになる。
「彼はねー、女の子に優しい、いわゆるチャラ男キャラなのよね」
「ちゃら……お?」
「チャラチャラして、女の子を何人も侍らせてるタイプ。ほら、彼っておしゃれで話がうまくて、女の子に対して愛想がいいから」
「……ちゃらお」
「彼がそうなったのは、モーニングスターのお家柄が原因ね。あそこって、女性ばっかりでしょ?」
「現在の当主も、女性だしな……」
ハルバードが南の名門なら、モーニングスターは北の名門だ。ハーティア北部諸侯をまとめる大侯爵である。
温暖な南部と違い、北部はとにかく冬の寒さが厳しい。
農耕可能な期間が短いこともあり、産業は牧畜と林業がメインだ。北端には海岸があり、漁業をしている地域もあるんだけど、その恵みをいまいち利用しきれてない。真冬になると海岸線が広範囲で凍っちゃうからだ。そのせいで、貿易拠点としてもカトラスほどは利用されてない。
「そういう厳しい土地柄だから、騎士伯家ほどではないけど、強い男性リーダーを当主にする傾向があるのよ」
「だが、人は性別を選んで子を設けることはできない」
「親戚も含めて、一族全体で女の子ばっかり生まれたんじゃ、女子を当主にするしかないよねー」
男子に恵まれなかったモーニングスター家は、ここ3代続けて女子が当主になっている。現当主も、次期当主も女性だ。彼女たちはそれぞれケヴィンの祖母と母にあたる。
「クレイモアの時のように、アギト国がひそかに男子を抹殺していたんじゃないのか?」
「ううん、これは完全に偶然みたい。攻略本に『偶然』ってはっきり書いてあるし」
「……女神の御言葉なら、信じるしかないか」
「それで、次期モーニングスター侯爵が女の子ばかり3人産んで、次世代も女系になるのか、って思われてたところに産まれたのが、ケヴィンなのよ」
周り全部女子ばかりのところに産まれた、久しぶりの男子。
それが彼の悲劇の始まりだった。
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