ラインヘルト子爵令嬢

「用がすんだら、はいさようならって、ひどくない?」

「俺はこの後、見合いに来ていたクリスティーヌ姫様も送り出さないといけないの! これ以上王族やら高位貴族やらに構ってられねーんだよ!」

「そう思うなら、質問に答えてくれ。聞きたいことを聞いたらすぐ帰る」


 フランの要求に、ダリオは嫌そうに顔を歪める。


「何が知りたい?」

「オークションの最後に出品されていた、ラインヘルト子爵家の令嬢のことだ。彼女は今どうしている?」


 そういえば、あの混乱の中でセシリアはカトラスの兵士たちに保護されてたんだよね。

 怖い思いをしてたらどうしよう、って心配してたんだけど。


「あー、あいつもこの屋敷で保護してるぜ。さっき目を覚ましたんで、メイドに世話をさせている。報告によると、体調に問題はないそうだ」

「あの子はこれからどうなるの?」

「会場で保護した他の連中と同じように金を持たせて故郷に帰す……とはいかねえなあ」

「子爵家令嬢だもんね」


 一般人と同じように、家に戻してはい終わり、とはいかない。


「彼女が闇オークションにいたのは、継母が売り飛ばしたからだ。王都で話題の魔力式瞬間湯沸かし器を購入する資金がほしかったらしい」

「そんな理由で……?」


 ゲーム知識で、継母が金の亡者だと知ってたけど、あんまりにもあんまりすぎる。

 私の横で、フランも重いため息をついた。


「元々、人身売買は重罪だが、貴族子女を売ったとなれば、更に罪は重くなるだろう。その継母は……」

「ラインヘルトを監督するカトラスが断罪する。それなりの刑に処すことになるだろうな」


 それなり、と言いながらダリオは首をとん、とちょん切るジェスチャーをする。

 人ひとり売った罪は、命で償えってことなんだろう。


「あれ? そうなると、ラインヘルトにはセシリアしかいなくなるわよね? 領地の管理とかどうするの?」

「それも、カトラスが代理運営することになるだろうな。セシリア本人も成人するまでは次期カトラス侯、つまり俺が後見人として保護。王立学園卒業後は適当な貴族子弟と結婚させて、子爵家を引き継がせる」

「まあ、妥当な処置よね」


 貴族子弟と結婚させる、とか引き継がせる、とか将来を勝手に決められてるけど、貴族の家に生まれた女の子なら、しょうがない。というかむしろ当然のコースだ。


「……というのが理想だ」


 ん? 理想ってなんだ。


「何か問題でもあるの?」

「大ありだ。なにしろ、カトラス家自体が、1年後まで存在しているかどうか、わかんねえからな」


 あっはっは、とダリオは乾いた笑いをもらす。

 私の記憶が確かなら、カトラスはハルバードと同じ、建国から続く名門の巨大侯爵家だ。そう簡単につぶれてもらったら困るんだけど?!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る