狂乱戦士

「ガァァァァッ!」


 腹の底から雄たけびをあげると、獣人戦士ツヴァイは己を閉じ込める檻を破壊した。

 鋼鉄製の柵を苦も無く曲げて、のっそりと外に出てくる。

 金色の目は狂気に染まり、爛々と光っていた。


 やばい。

 服従の呪いによる狂乱状態だ。

 恐らく彼は、周囲の動くものを全て破壊するか、自分の命が尽きるまで、攻撃をやめないだろう。


凍結ゲフィーエレン、ツヴァイ!」


 呪いが彼を操っているのなら、同じ力で対抗だ。

 私は、以前フィーアに使った停止の言葉を口にする。

 ゲーム内では、この言葉で彼を拘束することができた。今回も効果があるはず!!!


「ガァッ!!」


 しかし、ツヴァイは止まらなかった。

 いらだち紛れの拳がこっちに向かってくる。


「リリィ!」


 間一髪、フランが私を抱えて跳んだ。

 背後を振り返ると、さっきまで私が立っていた場所が粉々になっていた。

 彼の獣人としてのユニークギフト『アニマフィスト』の効果だ。


 やってることは、ねこぱんちのはずなのに、破壊力がありすぎて全然笑えないよ!!


「ご主人様、ユラが唱えたのは狂乱の言葉です。あれを一旦唱えられたら、もう他の命令は届きません! 死ぬまで暴れ続けます!!」


 意識のないセシリアをかばいながら、フィーアが叫んだ。


 あれは自爆用の言葉なんだね!

 服従の呪いにはマジで胸糞悪い機能しかついてないな!!


「生き残っている奴は何でもいい! 矢でも、魔法でも、遠距離から囲んで攻撃しろ!」


 ダリオが劇場内に残る部下たちに命令した。


「あいつの武器は拳だ! 距離さえとれば殺せる!」


 そのとたん、上階のバルコニー席から矢が飛んできた。

 ダリオの判断は正しい。こんなヤバい狂った戦士は、安全な距離から攻撃するに限る。

 でも、戦略としての正しさと、私にとっての正しさは別だ。


「やめなさい!」


 私は舞台前に走りこんだ。

 わざと、兵士たちとツヴァイの間に割り込むようにして立つ。


「ツヴァイを殺してはダメ!」

「お前どこのクソガキだ、邪魔すんな!」


 今度は血相変えて走ってきたダリオに抱えられた。


「ツヴァイは死なせない!」

「死ぬまで暴れるっつー状態なんだろうが! さっさと殺したほうがいいんじゃねえのか」

「やめておけ」


 私を追いかけてきたフランが隣に並ぶ。


「あの獣人戦士は、ユラに一撃いれて退かせた少女の兄だ。命の恩人の身内を問答無用で殺すのか?」

「お前……嫌なタイミングで、嫌なことを教えてくるな……」


 ダリオはがりがりと頭をかく。


「作戦変更だ! 直接当てるな、足止めに集中しろ!」


 ダリオが声をかけると、バルコニー席からの攻撃の方向性が変わった。

 とにかく、ツヴァイが舞台前から動かないよう、行く手を遮るように矢が飛んでくる。


「俺に指図したんだ、あいつを止める方法は考えているんだろうな?」

「当然だ」


 ダリオに睨まれても、フランは表情ひとつ変えず、ベルトに装着していた魔法薬の小瓶のひとつを手に取った。

 その黒い小瓶には見覚えがある。


「暴れる獣は眠らせればいい」


 ディッツ特製睡眠薬の出番だね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る