強制睡眠イベント
「薬であいつを眠らせる。それまで、足止めをしろ」
「俺に命令までする気かよ!?」
「なんだ、そんなこともできない無能か……」
はあ、とフランがわざとらしくため息をつくと、ダリオの目が吊り上がった。
「お前、あとで覚えてろよ?」
抱えていた私を、ぽいっとフランの足元に降ろすとダリオはツヴァイに向かっていった。
弓矢の援護を受けながら、ダリオはツヴァイの注意を引く。
その間に、フランはディッツの作った睡眠薬に魔法をかけた。火の魔法で温めると、黒い小瓶からはすぐに紫色の湯気が立ちのぼりはじめた。
さらに風の魔法を加えると、紫色の湯気がツヴァイに向かっていく。
ディッツの魔法薬の効果は絶大だ。
あれを吸ったら最後、完全に意識がなくなるはず。
しかし、ツヴァイに薬を吸わせるのは、簡単じゃなかった。
「ウォォォッ!!!」
湯気が顔に到達しようとした瞬間、ツヴァイが真横に飛んだ。湯気を危険なものと判断したのか、とっさに距離をとる。
「ちゃんと当てろよ!」
「簡単に言うな!」
いくら魔法があるっていっても、特定の空気の塊だけを操って、相手の顔に当てるなんて芸当は簡単じゃない。獣人は身のこなしが軽く、動きも速い。その上、ツヴァイを狙うと同時に、陽動担当のダリオを避ける必要がある。
見ている以上に、高度なことをやっているんだ、フランは。
「ご主人様、私も出ます」
黒い影がツヴァイたちに向かっていった。
セシリアを隅に移動させたフィーアが参戦したのだ。
さすが獣人同士というか。フィーアはツヴァイの獣のような動きを上手に読んで、いなしてくれる。
「転ばせます! 組みついて!」
「クソ、無礼者ばっかりかよ!」
フィーアがツヴァイの足元に全力で体当たりする。ぐらりと傾いた瞬間、ダリオが突進した。ラグビーのタックルの要領で、全体重をかけてツヴァイを組み伏せる。
背中から床にたたきつけられて、一瞬ツヴァイの動きが止まった瞬間、紫色の湯気が彼の顔を覆った。
「ガァッ………!」
薬を受けてもなお、ツヴァイは立ち上がろうとする。
その体に、さらにフィーアが覆いかぶさった。
「お兄……! お願いやめて! 眠って……!」
「ァアアッ……」
「眠ってくれたら……助けられるから……だから……お願い、お兄……」
「……ア、……アアァ……」
一瞬、妹に手を伸ばしたあと、ツヴァイは急に動きを止めた。
ばたりと手足を床に投げ出し、それっきり動かなくなる。
「死んだ……か?」
ダリオがおそるおそるツヴァイの顔を覗き込んだ。
意識を手放したツヴァイの顔は土気色だった。ぴくりとも動かない様子に、見ている私たちの血の気が引く。
ツヴァイの首元に手を当てたフィーアが、嫌そうにダリオを睨んだ。
「縁起でもないことを言わないでください。兄は眠っているだけです」
「……よかった、睡眠薬が効いたみたいね」
「治療は必要ですが、死ぬことはないと思います」
「よし、それじゃあ連れて帰って、ディッツに診せましょう」
「納得してるところ悪いんだがな?」
私とフィーアの会話に、ダリオが割って入った。
「立場上、さすがにタダで帰してやるわけにはいかないんだわ」
振り向くと、さっきまでツヴァイとの戦いを支援してくれていた兵士たちが集結していた。
とっさに一緒に戦ってたけど、冷静に考えたら、私たち3人は明らかな不審者だ。
あれ? これって逮捕コース?
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