悪役令嬢は闇オークションに参加したい

闇オークション

 フィーアの兄、ツヴァイが闇オークションで売られている!

 その衝撃的な事実を知ってしまった私は、その日の午後……別荘のリビングでだらだらしていた。


 いやでもこれはしょうがないから!

 武器屋で瀕死のドワーフを拾ったり、暗殺者に命を狙われてカトラスの町中を走り回ったりしてへとへとだったところに、男装女子と女装男子を入れ替える陰謀に関わったりして徹夜したんだもん。昼過ぎまでベッドで休んで、だらだらしててもバチは当たらないと思うんだよね。


 相棒のフランも、真面目そうな顔を装いながらもだらだら中だ。一応、リビングで本を読んでる風を装ってるけど、さっきから一向にページが進んでない。現代日本でいうところの、速読的なスキルをマスターしている彼にしては珍しい。

 何か考え事をしてるのかな、とも思うけど、休息中にそんなことを聞くのも野暮な気がするので、相変わらず泣きボクロがセクシーな横顔を観察するだけにしておく。


 おやつをお代わりすべきか、夕食まで我慢するべきか、と考えていると、ドアがノックされた。声をかけると、フィーアが入ってくる。彼女の手には手紙が一通握られていた。


「クリスティーヌから返事が来たの?」

「はい、ご確認ください」


 フィーアから手紙を受け取って封筒を開けると、上質でかわいらしい便箋に、わざと雑な書き文字で返事が書き綴ってあった。見た目は美少女、中身はチンピラな彼らしい。


「内容は?」


 フランが本から顔をあげて尋ねてくる。


「自分はもう闇オークションは必要ないから、代わりに参加していいって。参加証替わりの指輪も同封してくれたわ」


 これは予想通りの返答だ。彼が闇オークションに参加してまで手に入れようとしていた、『金貨の魔女の変身薬』はすでに東の賢者から入手することが確定しているのだから。カタログ自体不要として、うちのゴミ箱に捨てていったくらいだ。その参加権を私が使いたいと言い出しても、問題ない。


 私は封筒から出て来た指輪を観察する。ジェイドと違って魔力探知が苦手な私には、詳しいことはわからないけど、何か魔法がかけてあるみたいだ。きっと、この魔法があるかどうかで参加者を区別しているんだろう。


「カタログはある、参加証もある、資金も……ツヴァイひとり買うくらいなら用意できる。参加条件は整ったわね。オークションの開催は今日の夜中だっけ?」


 私が尋ねると、フランはテーブルに置いておいたカタログに目をやった。


「正確には22時だな。まあ、俺たちの目的は最後の目玉商品だから、少々遅くなったところで問題ないが」

「ご主人様、補佐官様……ありがとうございます」

「フィーアは気にしないで。あなたのお兄さんなら私にとっても身内みたいなものだし」


 それに、ツヴァイは攻略対象のひとりなのだ。世界救済のキーパーソンである彼は、能力が非常に高い。味方に引き入れて損はない。


「でも、なんでこんなところで売られてたのかしら」


 ゲームの中のツヴァイは、神出鬼没の暗殺者だ。暗殺組織の指示に従って、王都を舞台に暗躍していた。何の前触れもなく表れて、いきなり殺されてデッドエンド、なんてこともよくあった。その彼が、ゲーム開始から2年も前に捕まって、オークションにかけられているのは何故だろう。


「それは多分、ご主人様のご活躍のせいではないかと」


 また私が原因なの?!


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