銀髪☆パラダイス

「シルヴァンとクリスティーヌ様がいとこ同士だなんて、初耳だわ」


 そんなの、攻略本に載ってたっけ?

 今ここで黒歴史ポエムな攻略本を出すわけにもいかないので、私はただ首をかしげるしかない。


「母様はボクを産んですぐに亡くなってしまったから、ボクらの世代で知ってる子は少ないのかもしれないね」


 なるほど、ゲーム開始前に退場したダリオ・カトラスと一緒か。『聖女に観測されてない人間関係』というやつだ。


「先代モーニングスター侯爵夫人と、ボクの母様、そしてクリスティーヌ様のお母様は3姉妹でね。全員、モーニングスター家の血が入ってるんだ。だから、みんなおそろいの銀髪なんだよ」


 そういえば、モーニングスター侯爵家跡取の攻略対象も、見事な銀髪だったなあ。

 ゲームで遊んでた時は、『いくらなんでも銀髪率高すぎ!』って思ってたわー。でも、血がつながってるのなら似るのは当たり前だ。

 プレイヤーが混乱しないよう、兄弟でも全然別ものにキャラ設定されてる、ゲームのほうが不自然な世界なのかもしれない。


「じゃあ、ふたりは子供のころから付き合いがあるの?」


 問題だらけの王室の中で、クリスティーヌもまたいろいろとややこしい問題を抱えている。シルヴァンと関係が深いなら、今回のお友達作戦をきっかけに、クリスティーヌに近づけるかもしれない。


「うーん……面識はあるけど、付き合いがあるかって言われると微妙かなあ。クリスティーヌ様は、滅多に離宮から出てこないし、ボクも普段はクレイモア領にいるから。3年前に王妃様主催のお茶会でちょっと見かけたくらいだね」

「そうなんだ」


 まあ、そうそううまくはいかないか。

 ゲームで垣間見たふたりの性格だと、お互い親戚だからって仲良くするタイプじゃないし。

 その上、どっちも秘密を抱えてるからなあ……。


 王室にはあの王妃様がいる。彼女の目をかいくぐる体制が整うまでは、クリスティーヌ様の問題は棚上げしておいたほうがよさそうだ。


「3年前のお茶会で印象に残ったのは、むしろ……」


 ふとシルヴァンが言葉を切った。

 複雑そうな目で見られて、シルヴァンが何を思い出しているのかを察する。


「お、お願いだから、あの時のことは忘れてぇぇぇ……!」


 そういえば3年前のお茶会でリリアーナが突撃した相手のひとりだったね!!

 あの件がきっかけで覚醒したとはいえ、あの日の出来事は闇に葬り去ってしまいたい。

 私が頭を抱えていると、シルヴァンはクスクスと笑い出す。


「実を言うと、今回のお見合いは破談にするつもりで来たんだ」

「……ふうん?」

「男なら13にもなれば婚約者のひとりでもいるのが普通だ、って親戚に言われてね。でも、ボクはまだ婚約者を作るわけにはいかないから、とにかく誰でもいいから、一度だけでもお見合いして破談にした記録を作りたかったんだ」


 普通の女の子相手なら失礼極まりないシルヴァンの告白だけど、私は驚かなかった。だって、私は彼女の正体を知っているから。できることならぎりぎりまで結婚話から遠ざかりたいはずのクレイモア家が、お見合いを持ち掛けてくるなんて、裏があるに決まってる。


「おじい様はハルバード侯爵とつきあいが長いから相談しやすいし。それに……お茶会で見たようなワガママな女の子なら、破談にしてもそんなに罪悪感がないと思ったんだ。でも、失敗したなあ」


 はあ、とシルヴァンは大きなため息をついた。


「君がこんなにおもしろい子だと思わなかったよ。このまま破談にしてそれっきりになるのは……なんていうか」

「もったいない?」

「すごく都合のいいこと言ってると思うけど、そんな感じ。でも破談にしたらやっぱり、気まずいよね?」

「そうでもないわよ。私も、結婚する気はさらさらなかったもの。あなたに会ってみたかっただけで」


 こっちも裏があったことを白状してあげると、シルヴァンは一瞬真顔になった。その後、もう一度大きなため息をつく。


「そういうことか! 他の女の子と違って、『女の子扱いして!』って言ってこないから、変だなって思ってたんだよ。ええ……お見合いってこういう時は、どうなるの?」

「もう友達でいいんじゃない? 結婚は考えられないけど、仲良くなりましたってことで」

「そうなのかなあ……?」


 シルヴァンは、納得いかないって顔だ。

 まあ、1日遊んだくらいで、これからどう付き合っていくべきか、なんて決められないよね。


「とりあえず、私との約束はあと6日残ってるんだし、その間は思いっきり遊びましょ。せっかくカトラスまで来ておいて、ごちゃごちゃ考えてたら損だわ」

「い、いいのかな?」

「ちなみに、明日は主に武器を扱う職人街に行く予定です」

「えっ……」

「カトラスの武器、見てみたくない?」

「その誘い文句はずるいって!」


 私の言葉に苦笑したあと、シルヴァンは頷いてくれた。


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