来ちゃった(はーと)

 カトラスに到着した数日後、いつもよりおしゃれした私は、保護者代理のフランと、従者のジェイド、フィーアを従えて貴族向けの高級レストランへと向かった。

 ついに、お見合いにかこつけてシルヴァンと仲良くなろう作戦の決行日だ。


 気合をいれてレストランのドアをくぐった私を出迎えたのは、白いおヒゲがかっこいいクレイモア伯と、銀髪の美少年にしか見えない男装の麗人シルヴァンと……黒髪の最強騎士だった。


「……お父様?」


 ごしごし、と目をこすってみても父様の姿は消えない。

 間違いない。現実の父様が立っている。

 なんでこんなところに父様がいるの!


「リリィが初めて、自分の意志でお見合いをすると言い出したからね。気になって来ちゃった」

「私の縁談には関わらない、って言ってなかったっけ?」

「もちろん、リリィの決めたことには従うよ。でも、ちょっと気になるのはしょうがないと思うんだ」


 最終決定に口は出さないけど、顔は見ると。

 相手が下手な男子だったら、父様の顔を見た瞬間逃げ出すんじゃないの、それ。

 ……まあ、父様見たくらいで逃げるような相手はそもそも選ばないと思うけどさ。


「それに、久しぶりにクレイモア伯にご挨拶したかったしね」


 父様はぺこりとクレイモア伯に会釈する。

 最強騎士と騎士伯。世代は違うけど、同じ騎士同士、昔からつきあいがあるみたい。


「お仕事はいいの? むこう半年は王都を離れられないって聞いてたのに」

「ちょうど、王族のひとりが見合いのためにカトラスに向かうことになってね。その護衛として同行させてもらったんだ」

「なるほど、半分お仕事なのね」


 王族としても、最強騎士が同行してくれるなら、こんなに心強いことはない。


「とはいえ、王都に仕事を残してきたから、今日の午後には戻らないといけないんだけど」


 リリィとゆっくり食事したかったなあ、と父様は苦笑する。

 遠くカトラスまで来て、一泊すらせずに王都に戻るって……それはかなり無茶なのでは。

 うーん、父様が私の我儘を許容するから、何も考えずに動いてたけど、心配のあまり無茶をするようなら、私も少しは行動を改めたほうがいいかもしれない。

 今度から、心配されないようもっと水面下で動こう。うん、それがいい。


「あ、あのっ……ご挨拶させていただいても、よろしいでしょうか……!」


 ハイトーンのソプラノボイスが、私たちに投げかけられた。

 緊張でがっちがちに顔をこわばらせたシルヴァンが、クレイモア伯と一緒にやってくる。

 彼は、私たちの前で「ビシッ!」と擬音がつきそうな勢いで騎士の礼をとった。


「初めまして、ボクはシルヴァン・クレイモアと申します。ハルバード侯爵、リリアーナ嬢、お目にかかれて光栄です」

「はじめまして、シルヴァン」


 父様がよそいきの顔で軽く礼をする隣で、私も淑女の礼をする。

 顔をあげると、シルヴァンはキラキラした目で父様を見ていた。


 あー、この顔はなんか前世で見たことがある。主にショッピングモールのヒーローショーとかで見たやつだ。憧れの英雄を間近で見て興奮している少年の顔だ。

 うちのお城でも、たまに領地に帰って来た父様を見て、従騎士や新兵がこんな顔をして敬礼している。


 そういえば、シルヴァンって見た目は綺麗系なんだけど、趣味は剣術、読む本は戦記ものオンリーな、ザ・脳筋騎士だったっけ。

 綺麗なお花とかあげても全然好感度上がらなかったのに、肉をプレゼントしたらいきなり2段階くらい跳ね上がって頭抱えたんだよなー。

 そんな騎士バカな彼女の前に最強騎士が現れたら、テンション上がるよね。


「悪いな、ユリウス。去年お前が御前試合で戦うのを見て以来、ずっとこんな調子なんだ」

「それは光栄ですね」


 その隣で見合い相手が置いてけぼりなんだけど。

 えー、どうしたらいいの、これ。

 父様のせいで1ミリも興味持たれなくなっちゃったんだけどー!!!!!

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