君の名は
「ど、どういうこと? フランって獣人に知り合いがいるの?」
予想外のことに、私は思わずフランにくってかかってしまった。私に体当たりされて、足に響いたらしいフランは小さくうめき声をあげて眉間に皺を寄せた。
「……いない。前にも言っただろう、獣人に関しては小耳にはさんだ程度だ。だが、その時にこんな話も聞いたんだ。彼らは、生まれた順番に従って、名前をつけると」
「順番……一郎次郎みたいなものかしら」
「イチロウ? ……まあいい。とにかく、生まれた順に彼らの言葉で『一番目』『二番目』とつけていくらしい。だから、家族構成がわかれば名前を当てるのは難しくないはずだ」
「それ、家庭の中ではいいけど、集落の中で見たらそこら中に『一番目』がいて混乱しないのかしらね……」
「さあ? だが今、彼らの文化について考察しても意味はないだろう」
「大事なのは、順番ってことよね」
私は攻略本のページをめくる。
悲惨な生い立ちのせいか、ツヴァイは自分の家庭ことをあまり話さなかった。イベントを通してわかったのは、弟と妹がいること。彼らのことをずっと気にしていたということくらいだ。
「えっと……ツヴァイには弟と妹がいて、妹が末っ子だったはずだから……」
「だとすると3番目か?」
「そのはず……だけど」
何かがひっかかる。
私は攻略本のページをめくる。この中のどこかに、ツヴァイたちが使っていた獣人の古い言葉の対応表があったはずだ。
あれを見れば……。
「お嬢様!」
周囲を警戒しに出ていたはずのジェイドが戻ってきた。兄も青い顔で一緒に走ってくる。
「どうしたの?」
「あああ、あ、暗殺者たちがこっちに向かってる」
「やっぱり獣人相手じゃすぐに逃げた方向を発見されちゃうわね」
「それだけじゃない」
兄様は不愉快そうに顔をしかめて、首を振った。
「ハルバード騎士団が一緒に追ってきている」
「かか、風の魔法で、話し声を、拾ったんだけど、魔法使いディッツが外から不審者を引き込んで、お嬢様と若様を攫って逃げた、ってことになってる」
「ひでえ話だな。俺はお嬢に忠誠を誓ってるっていうのに」
「騎士団の者は、ハルバード領の地理を熟知している。俺たちの逃走経路などお見通しだろう」
「包囲されるのも時間の問題ってわけ?」
うちは、歴史ある南部の大侯爵家だ。当然、兵の士気も練度もただの地方貴族とはレベルが違う。相当なプロフェッショナルが追ってきていると思ったほうがいいだろう。
有能な人間が敵に回ると、本当にタチが悪いな!!
「だからといって、このまま殺されるわけにもいかないわね」
私は顔をあげて立ち上がった。その後ろでフランもゆっくりと体を起こす。
「立てる?」
「馬に乗るくらいならなんとかな」
「お嬢はフランドール様と一緒だ。馬に乗ったまま、フランドール様に痛み止めと治癒の魔法をかけ続けてくれ」
「ぼ、ボクがかけたほうが、効率はいい、けど」
「ジェイドの魔法は、敵と戦う時までとっておきなさい。そっちのほうが生き残る確率が高いわ」
私たちは、休憩前と同じ割り振りで馬にまたがる。
ただで死んでやるもんか。
最後の最後まで足掻いてやる!
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