運命を捻じ曲げろ!

「どどどどうしてそこで父様の名前が?!」

「偶然、だな。社交界での助力を依頼しにうちの屋敷を訪れたところ、不審な動きをする者を見かけたので、とりあえず捕縛したそうだ」

「あー……」


 お父様、私たちとの約束を守って、真面目に奔走してたのね……。それで、ミセリコルデ宰相家に行ったら不審者を見つけちゃった、と。


「そして、捕らえた者たちを尋問した結果、標的が父と姉であることが判明したそうだ」

「そこまでわかったのなら、マクガイアを暗殺容疑で告発したらいいんじゃないですか? 人殺しを指示した人も罪に問われるんですよね?」


 私の問いに、フランドールは首を振った。


「高位貴族の告発はそう簡単にはいかない。暗殺者そのものを捕らえても、マクガイアが指示したという明確な証拠がなければ訴えることができないからな。暗殺者たちからは、アギト国出身である、ということと標的の名前までしか得ることができなかったそうだ。

 しかも、せっかくハルバード侯が生きて捕らえてくださったというのに、奴らは翌日には牢の中で息絶えていたらしい」

「プロ意識の高い暗殺者は、失敗と判断した時点で自決しますからね」


 そんなプロ意識、いらない。

 捕まったらべらべら情報を全部吐いてほしい。


「だが、ひとついいこともあった。命を狙われていると知った父たちは、護衛の数を増やし、屋敷の守りを固めることに成功した。その後も暗殺者が送り込まれてきているようだが、全員近づく前に排除されている」

「そ、そうなんですね……」


 私は、顔をひきつらせながらうなずいた。

 ゲームの中の宰相たちは、おそらくこの暗殺者事件で死んでいたのだろう。しかし、痩せてアクティブになった父様が彼らの屋敷を訪れたことで、運命が大きく変わってしまったようだ。


 あれ? これ、うちの家以上に運命が変わってない?


「宰相閣下たちは暗殺者を退けたんですよね? どうして今度はフランドール先輩が襲われているんです?」

「マクガイアが標的を変更したからだ。宰相本人と娘は警備兵が守りを固めておいそれと手出しができない。代わりに、さほど兵力を持たない周りの者を狙うことにしたんだ。

 最初は、姉の婚約者のポール・セラス伯嫡男。次に姉の叔父にあたるレトリア伯……その他、宰相家にゆかりのある者が次々と殺されていった」

「うん? どういうこと……なの?」


 状況がよくわからない。証拠を握ってる宰相本人を消さないと、告発は止められないよね?


「このままマクガイアの汚職を追及すれば、宰相は無事でも周りの人間が皆殺しになるぞ、という脅しだな。暗殺の標的になると知られれば、宰相家に協力する者も減る」

「なにそれ、卑怯すぎない?」


 兄の分析を聞いて、私は思わず声をあげる。


「父が相手にしたマクガイアという男は……いや、アギト国の間者はそういう者たちだ」


 やり口がえぐい。

 アギト国がヤバいっていうのは、ゲームで知ってるけどさー。モニター越しに事件を見るのと、目の前で具体的に人が死んだ話をされるのとでは意味が違う。


「襲われた、ということはフランドール様もそのターゲットになったんですよね?」

「ああ。もともと、俺は姉と違って周囲が重要視していなかったからな。暗殺者を捕らえた当初は、まさか標的になるとは思わず、護衛騎士もさほど増やさなかったんだ」

「先輩自身も、槍術と魔法の使い手ですしね」

「だが、数の暴力の前には無力だ。外出先で襲撃され、母方の実家を頼って王都から脱出したはいいが、執拗に追われるうちに街道を外れて……気が付いたらハルバード領に入り込んでいた」

「そこを、私が見つけたわけですね」

「どうもそうらしい……」


 一気に喋って疲れたのか、フランドールはあおむけのままもう一度大きくため息をついた。

 痩せた父様が宰相閣下を救った結果、矛先がフランドールに向かった……あれ? そもそも、父様をダイエットさせた張本人は私だよね? もしかしてフランドールが死にかけた大元の原因って、私……?


「ん? ちょっと待ってください。宰相閣下には子供がふたりいるんですよね? どうしてフランドール様とその姉君で状況が違うんです」

「それは……」


 ディッツのふとした疑問に、私も兄様も、そしてフランドールも、複雑な顔をするしかなかった。



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