色男、金と力はなかりけり

 東の賢者と名高い魔法使い、ディッツ・スコルピオは戦闘が全くできなかった!!

 予想外のことに驚いていると、ジェイドがついつい、と私の服の袖を引っ張る。


「あ、ああああ、あの、ごめん。師匠が、全然、戦えないのは……本当。戦ってるときに、魔力をコントロールするのが、ニガテ、なの」


 そういえば、王都で護身術を習っている時も、「魔力なしでどう逃げるか」「どうやって敵の意表をつくか」などと、とにかく戦闘を避ける方法ばっかり教えられてたな。

 てっきり非力な淑女向けにカスタマイズした授業だと思ってたんだけど、ディッツ自身が今まで積み重ねてきた知恵だったようだ。

 めちゃくちゃ意外だったけど!


「考えてもみろよ。ガンガン攻撃魔法を使って戦闘できる奴が、ちまちま薬の研究なんかするか? 俺は研究室でコツコツ薬草を調合するのが性に合ってんの!」

「ええ……それ、胸を張って言うこと?」


 まあ、だからこそ、姿を変える魔法薬だとか、一瞬で相手を無力化する閃光弾だとかを開発できたわけだから、一概に悪いことじゃないのかなあ。


「ディッツが戦えないのはわかったわよ。だとしたら、3人だけのお出かけって大丈夫なの? 私は初級魔法くらいしか使えないし、ジェイドだって才能があるっていっても、まだ子供でしょ?」


 ひとりくらい、護衛騎士を連れてきたほうがよかったのでは。


「そこは心配ない。俺たち全員、賢者特製の目くらましの魔法がかけてあるからな。うまいこと距離を取っていれば、俺たちが森を歩いていることなんて、誰も気づかねえよ」

「完全に戦闘を回避できるから安全、ってことなのね」

「ああ。だが腕に自信のある奴ほど、この戦法に納得してくれなくてなー。下手に動かれるよりは、絶対に戦闘を回避するメンツで動くほうが楽なんだわ」

「言ってることはわかるんだけど……」


 なんだろう、この微妙な不安感。


「あああの、お嬢様、ボク、今お城で、戦闘訓練にも、参加してるの! まだ……騎士様と戦えるくらい強くはないけど……すぐに、強くなるから! ちょっとだけ、待ってて」

「うん、期待してるわ」


 そしてこの弟子の安心感である。

 ディッツは私に向かってイイ笑顔を向けてくる。


「安心しろ、お嬢! 何があっても、俺がお嬢を危険から隠してやるからな!」


 おい師匠。

 かっこいいセリフっぽく言ってるけど、あんまりかっこよくないぞ!!



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