宿命という名のOS


…、という風なシナリオが地球シミュレーターで実行された。


何者かが、無断で世界最速のスーパーコンピューターに侵入し、結果をインターネットに公表した。それを真に受けた人々が本当に破滅の自由党を各地で結成し始めている。


ここはナノ分子ドローン散布計画の実行本部。スーパーコンピューターや量子コンピューターが頑丈な岩盤に設置されている。核の直撃にも耐えるシェルターだ。ここから地球上に拡散したドローンに指令を与えて強酸性雨を無害化する。


その一方で妨害工作に対する備えも怠らない。陰謀論者の手の内は彼ら自身がネットで拡散していたため、阻止もたやすい。


ナノ分子ドローンは5G電波で誘導される。陰謀論者が言うには目には目を歯には歯を、毒を以て毒を制すだ。人体に有害な電波を同等のパワーで相殺すればよい。その副作用としてガンマ線バーストの影響も無毒化できる。

さらに、陰謀論者側の電波には神の御加護があり、白人エリートを選択的に殺す効果もあるという。


ドローン散布計画本部は塔を攻撃する機能をナノ分子ドローンに追加した。

ただ、急な仕様変更がメインプログラムに干渉してなかなかデバッグがすすまない。

システムエンジニアたちは徹夜続きで疲れ切っていた。

「でも、わたしも思ったわよ。このプロジェクトの成果は何かしら?」

「不毛の争いを教訓として残したことかな」

「妨害者たちは僅か三か月で準備を整えた。資金、人員。クラウドファンディングで…」

「残念だけど、僕らもそれが出来てればね。」

「でも、結局、なんも出来ていなかったでしょ?」

「それは、仕方ないよ。僕らも、うえに言われたことをやっただけだし。」

「そうよね。ここまで出来てるなら、もうあとは実行犯を捕まえるだけよ。」

「そうだね。でも、実行犯を捕まえるって、どうやってって感じなんだ。」

「そうね。もう少し待つしかもっと現実的な手段で捕まえないと。」


一般人の顔をしたテロリストの摘発は難しい。ドローン搭載のナノ分子アイやセンサーに識別ルーチンを追加する作業が難航していた。

なにより、ふるまい予測が重要だ。ナノ分子ドローンに善良な地上局と邪悪な施設を判断させるために難儀している。陰謀論者は通信会社関係者に化けているからだ。そのためのふるまい予測である。

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