第677話 形になっていく(百合ふうふと友人たち)
「私が持って来たのは、こちら!」
舞が紙袋から取り出したのは、薄緑の綺麗な男物のパーカーだった。前身ごろのジッパーも、光が当たるとうっすらと緑色に見えた。
「こ、これ……!」
令子の目が見開かれる。
「あれだよね?」
小雪も目を丸くして、そのパーカーを見つめていた。
「その通り! 十周年記念ポスターでニコが着てたやつと、そっくりでしょ?」
「というか、まんま。デザイナーがあのポスターをモデルにしたのかってくらい」
震える手で、令子がパーカーを受け取る。
フードや袖部分に施された赤いステッチのデザインすら、同じに感じられた。
「これを椅子に引っ掛けておけば、ニコと暮らしてる感出るかなーって思って!」
寒いときは羽織ったり?
そうそう。ニコが掛けてくれたのよ、きっと。風邪ひくといけないからって。
わー! ニコだ、ニコが居る!
小雪と舞の楽しげなやりとりを聞きながら、パーカーを眺める。
見れば見るほど、美しいグリーンは、彼の着ていたものだと錯覚してしまう。
そっと、それを椅子の背に掛けてみた。
机の上には、サックスの楽譜。
今しがたまで、彼が居たような気すらして来る。
「……ありがとう、二人とも」
つい、万感の想いが籠った礼になった。
二人は満面の笑みで「どういたしまして!」と応える。
「それを洗濯してるとき用の予備のカーディガンも買ってあるよ。こっちは、軍服と似た色味と配色の、それこそイメージオンリーのものなんだけど」
「ううん。嬉しい。ありがと」
シックな暗紅色と濃緑色のバイカラーカーディガンを受け取って、令子が笑う。
「すごい、いきなりニコが部屋に来たみたい」
彼女がしみじみそう言ったとき、チャイムが鳴った。
「咲希だ!」
まだ、彼女たちは知らない。
咲希の手作り弁当が、ホットサンド弁当であることを。
それは、ニコが死ぬ前に夢見た仲間たちとのピクニック映像で出て来たものの、再現であることを。
さらには、彼女のプレゼントが『ニコが使っていたのとそっくりのマグカップ(ともう一つ、色違いのお揃いマグカップ)』であることを。
それらについ皆で泣いてしまうことを。
今はまだ、知らない。
END.
こちら(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16818093075743896988)の四人。
咲希さんは、何度も一時停止と再生を繰り返して、ホットサンドの中身をチェック&予想してました。
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