第284話 夢の裏側でも星は綺麗(女性店員二人で、閉店後)

「おつかれさまー」

「おつかれーす」

 ここのショッピングモールの従業員用喫煙所は、屋上にある。

 もちろん、一階の隅にもあるのだけれど、私は仕事終わり、晴れていたらここで喫う。

 遠すぎて人があまりいないこともある。

 今日も、先客は同じ店の後輩しかおらず、嬉々として私は煙草を取り出し、火を付けた。

「っは~~~この一服のために仕事やってる」

「わかる~~~」

 後輩は、可愛い顔できゃらきゃら笑いながら、煙草を一口喫った。

 ふう、と紫煙を吐き出す様は、あまりにも決まっている。

 その一瞬だけ、いつもは幼く見える横顔が、大人びて見える。

「しっかし、うちの店のお花ちゃんがこんなところで煙草喫ってるなんてね」

「んぇ?」

 私が言えば、きょとんとした顔で彼女がこちらを見た。

「常連が見たら泣きそ~~~。清楚癒し系が自分より男前過ぎる~~~ってね」

「何じゃそりゃ、夢見過ぎ~~~」

 言いながらも、また喫って、吐いて。

 ふー……とか細く吐かれる煙のたなびく様。それを見やる目の伏した様子。

 本当に、ドキッとするくらい恰好良い。

 喫い慣れた人間の仕種。

「ってまあ、店員なんて、どの店でもそんなもんでしょうけど」

 彼女が言った。

「そんなもんって?」

「夢を見せる演技者です」

 彼女が灰皿に一本目を押し付け、二本目を銜える。

 カチッと夜闇に光るライター。煙草の先に灯るほの赤い火。

「素敵な品物を、素敵な笑顔で、優しい声で、手渡してくれる人。そんな夢を魅せるデショ」

「あら、素敵な解釈」

「でもそれは」

 あくまで夢、ですから。

 彼女が、肩を竦めた。

「現実に帰ったときには一服やらせてもらわないとね~~~」

 やってらんないですよね~~~~。

 と言って笑う顔は、子どもみたいに無邪気な顔だ。

 ギャップ萌えってやつかしらと思いながら、私は頷いた。

「言えてるわ~~~~」

 喫って、吐いて、紫煙の先。

 ここはけっこう大きめの駅の真ん前だし、まちと言えばまちだけど、それでもすぐそこに山がある。大きな川もあって、空も広い。

 星が美しく瞬いている。

 屋上で喫うのは、こういう景色が見られるからというのもある。

「あ、先輩。今、流れ星見えたっぽいです」

「マジで? 私も見たいからもっかい流れてぇ~~~」

「金ですか?」

「金~~~~~」

 私たちの現金な願いが、夜に滲んで溶けてった。


 END.


 笑顔が可愛い彼女はこちらの彼女(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16817139557583601764)。

 意外性が好き。

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