第283話 どんな恋でもそれでいい(薔薇? 片想い?)
ショッピングモール内にある、セルフカフェにて。
「頭いってぇ~……」
「んじゃ、家帰るか?」
「いや……大丈夫だ」
ぐったりとテーブルに懐く友人の前に、トレイを置いた。
トレイの上には、珈琲二つ。
頭痛持ちの友人を休ませるため、という理由でこのカフェに入ったものの。
頭を抱えてうんうん唸るこいつを見ていると、帰った方が良かったのでは? と思わなくもない。
「あの子を見るためだけに、頭痛いのこらえるか、普通?」
「だって癒しだもん」
友人はそういうと、俺の向こう側……カウンターの方を、身体をずらしながら見やる。
そこには、笑顔で接客している女の子が居る。
「ふーん……」
突出して美人、というわけではないが、にこにこと浮かべられた笑顔は、確かに人好きのするものだ。
親しみやすそう、というか。
「告白とかしねぇの?」
「はあ?」
週二で通い(あの子のシフトを何となく把握していることが地味に怖い)、ただ珈琲を飲みつつ、あの子を見ているという最近のこいつの習慣。
今も、痛い頭を押さえながらも眺めている。
思わず、そう問うてしまうのも無理からぬことだというのに。
こいつと来たら、「なに言ってんだお前」みたいな目でこっちを見て来る。
「見てるだけでいい、っつか、見てるだけがいいんだよ」
「何じゃそら」
なに言ってんだお前って言いたいのは、こっちだよ。
そんな、辛そうな顔してまで、あの子を見ているんだから。
「このあいだ、ここのフードコートでさ。恋バナしてる子たちが居たんだけど」
奴は、テーブルに懐いたまま、ちらちらとあの子を見ながら言う。
「『優しくフッてもらいたい相手だった』って話をしててさ」
「はい?」
「だから。付き合うよりも、程好くいい距離感でフラれたかったと。それで、『いい恋の思い出だった』ってしたいみたいな、そんな恋の話をしてたわけ」
「はあ」
意味が分からん。
マゾか。
フラれる前提で告るってことは、ままあるけど、フラれたくて告る、みたいなことか?
分からん。
「俺は、それに感動したね」
「何で」
こいつの感動のスイッチは、たまにバグってる気がする。
「恋は、どんな形でもいいんだなって」
「……」
「成就するだけ、それを願うだけが恋じゃないってことだよ」
「はあ……?」
「よって、俺は『見ているだけの恋』がいいのだ」
彼は、フンッと何故か得意げに鼻息を荒くした。
そして、ちょこっと起き上がって珈琲を飲む。あの子を見る。ほのかに口元に笑みを浮かべる。
「……よくわかんねーの」
俺はその顔を見ながら、やっぱりその恋愛観に首を捻り。
でも彼が倖せそうな顔をしているならそれでいいかと思った。
ほんの少し、痛む胸は見ないふりをして。
END.
フードコートでのお話は、こちら(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16817139557546127368)。
片想いのような、まだ恋愛までいってないような。
見ているだけで満足って恋のカタチも有りだと思います。
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