第271話 歳なんて関係ねぇ(百合。無自覚?)

「あっ」

「どうしたッスか」

 昼休み。お気に入りのラーメン屋。

 大将に「塩二つね」と頼みながら、カウンター席に座ったところで。

 私は、視界が良好なことに気が付いた。

 あれ、と思い、恐る恐る前髪に触れてみると。

 あった。

 ヘアピンの感触。

 わかる。デフォルメされた可愛らしい龍が、私の髪に鎮座ましましている。

「はっず。ピン付けっぱなしだったわ……」

「あ、私もッスね」

 後輩も、自分の前髪に手をやって言った。

 話に夢中になっていて、気付かなかった。

 仕事中は、お互いピンで留めているのが当たり前だから、あまり意識しないし。

「こんな可愛いピン付けて外出るなんて……」

 いい歳した大人が恥ずかしい……いくら龍とは言え、デフォルメされているので、可愛い寄りのキャラものなのだ。

「? 何でッスか?」

 後輩は、きょとんとした顔をしている。

 ちなみに、二人とももうピンはしたままだ。

 どうせ、ラーメンを食べるときにはしようと思っていたのだ。

「いや、こんなさあ、やんちゃな見てくれのいい大人が、可愛いグッズ頭にしてたら、『似合わねぇ』ってなるだろ?」

「ならねッスよ?」

 後輩は、傾げた首をもっと傾げて言った。

「先輩に似合うと思って買ったもんッスよ? 似合わないわけないじゃないッスか」

 あまりにも当然と言った雰囲気で言われるから。

 頬が、ラーメンを食べる前から熱くなる。

「……と、歳とか」

「いくつでも、似合ってればいいんじゃないッスかね」

 後輩は、黒に金メッシュ、ド派手刺繍スカジャンの似合うやんちゃな女の子だが。

 良いことをさらりと真顔で言う、真面目でいい子で。

「お前……タラシか?」

「失敬な。んなチャラくないッス」

 典型的な、誑しだ。


 END.


 こちら(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16817139556933868511)の。

 ラーメン食べたあともピンって外し忘れやすいのでご注意。

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