第234話 やっぱりここが一番好き(薔薇。幼馴染唯行×公彦)

「そういえば、陽火はるひに相談されたよ」

「相談?」

「恋愛相談」

 荷造りをしていた唯行ただゆきの手が止まった。

「……相手のことは聞いたか?」

「その様子だと知ってそうだね」

「莉音からな」

「なるほど」

 僕は、新しい段ボールを組み立てながら頷いた。

「それで? 何を聞かれたんだ?」

「僕らが付き合い始めたときの、僕の気持ちとか」

「……ふうん」

 それで? ともう一度唯行が聞く。

「なんて答えたんだ?」

「ユキに言ったのと同じことを答えたよ」

 僕は、ガムテープをビィッと引き出して言った。

「傍に居たいから、付き合ったんだって」

 唯行が、ため息を吐いた。

「馬鹿正直に」

「妹相手に嘘言ってもね」

 バレるに決まってる、と言えば、お前は嘘を吐くのが下手過ぎだ、と呆れたように返される。

「いいだろ、別に。陽火向こうだって、真剣に聞いて来たんだから。嘘で返すのもアレだよ」

「……いいのか」

 唯行が、ぱたん、と段ボールの蓋を閉めた。

「あいつらが、俺たちと同じ答えを出しても」

「それが、あの子たちの答えなら」

 僕は、またガムテープを引き出すと、唯行に渡す。

「それにあの子たちなら、ちゃんと自分の出した答えの責任を、受け止められるとも思ってるから」

「……甘いな」

「そうかも知れないね。でも」

 僕は、そこに積んであった本を手に取りながら言った。

「やっぱり、僕はユキとこうなったことを後悔していないから。後悔してないってことしか、伝えられないよ」

「──……」

「……ユキがどうかは、知らないけど」

 言ってから、何だか拗ねているみたいに聞こえるなと思って、僕は口を噤んだ。

 黙って、本を詰めることに集中しようと手元に視線を落とす。

 が。

「アキ」

 名前を呼ばれたあと、そっと頬に触れる手。

「俺も、後悔はしてない」

「……知ってる」

 そう答えてちらっと見れば、少し目を見開いて驚いた顔をしていた。

 僕はその顔を見て、ふふっと笑う。

「でも、直接言ってもらえると、やっぱり嬉しいね」

「……ふん」

 すっと顔が寄せられて、僕は自然と瞼を下ろした。

 唇に触れる温もりに、安心を覚えながら。

 僕からも、そろそろと彼に手を伸ばした。


 END.


 昨日(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16817139555119733908)の続き。

 彼らの受験は終わっているので、新生活に向けて引っ越し準備中です。

 ちなみに二人とも(学部学科は違うけれど)同じ大学に進学して、同じシェアハウスで暮らす予定です。

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